食物繊維から腸内細菌が作り出す有益なプロピオン酸塩だが、食品添加物として用いると...

(2019年4月) ヒトが食べた食物繊維を腸内細菌が分解して生じる短鎖脂肪酸(SCFA)の一種にプロピオン酸塩というものがあり、食欲抑制の効果があると報告されてもいますが、"Science Translational Medicine " 誌に掲載されたハーバード大学などの研究によると、このプロピオン酸塩が食品添加物(防カビ剤)として用いられると肥満や糖尿病のリスクに関与する複数のホルモンが増加する恐れがあります。出典: Could a popular food ingredient raise the risk for diabetes and obesity?

研究の概要

マウス実験

プロピオン酸塩をマウスに投与したところ、交感神経系が速やかに活性化して、グルカゴンやノルアドレナリン、そしてFABP4(*)などのホルモンの分泌量が急上昇し、それによって肝臓細胞が作り出すグルコース(ブドウ糖)の量が増えて高血糖(糖尿病患者に見られる)の状態になりました。
(*) fatty acid-binding protein 4(脂肪酸結合タンパク4)。 新たに発見された糖新生ホルモン。

また、マウスにプロピオン酸塩を一般人が摂取する程度の用量で長期間にわたり投与するという実験では、マウスの体重が増加したりインスリン抵抗性が増大したりしました。

二重盲検試験

14人の健常者を2つのグループに分けて、一方のグループにはプロピオン酸塩1gを混入した食事を、そしてもう一方のグループにはプラシーボを混入(*)した食事を食べさせました。 そして食前に、および食後15分~4時間にかけて30分間隔で血液を検査したところ...

プロピオン酸塩が入った食事をしたグループではノルアドレナリンとグルカゴンとFABP4の血中濃度が増加していました。 この結果から、プロピオン酸塩が「代謝撹乱物質」として作用して糖尿病や肥満のリスクを増加させる恐れが浮上してきました。
(*) 試験を二重盲検たらしめるうえで必要な措置なのでしょう。 二重盲検試験とは、どの被験者がプラシーボ(偽薬)を割り当てられたのか被験者だけでなく研究者にもわからない方式の試験。

プロピオン酸塩は食品添加物として概ね安全であると米国食品医薬品局(FDA)に認められていますが、今回の結果からするとプロピオン酸塩の安全性についてもっと調べる必要があります。

添加物でないプロピオン酸塩

ヒトが食べた物から腸内細菌が作り出すプロピオン酸塩は大丈夫なのでしょうか? プレスリリースの元となった研究論文を "bacteria" というキーワードで検索したところ、次のような記述が見つかりました:
Together, the current literature suggests that orally delivered propionate does not mimic the beneficial metabolic effects attributed to SCFAs derived from bacteria in the colon and may result in adverse metabolic effects, including insulin resistance and glucose intolerance.
(今回の結果を総合すると、経口で摂取するプロピオン酸塩は結腸に住む細菌に由来するSCFAがもたらす有益な代謝的作用を模倣しないと思われる。 それどころか、インスリン抵抗性やグルコース不耐性といった有害な代謝的作用をもたらす恐れすらある)
添加物としてのプロピオン酸塩(経口で摂取するプロピオン酸塩)と腸内細菌が作り出すプロピオン酸塩は同じではないという論調ですね。