アルツハイマー病患者の脳には食用油と同種の脂肪酸が蓄積している

(2015年8月) "Cell Stem Cell" 誌に掲載されたモントリオール大学病院研究センターの研究で、アルツハイマー病で死亡した患者の脳に脂肪滴が蓄積していることが再発見されました。 この脂肪の蓄積がアルツハイマー病を引き起こしている可能性があります。

「再発見」というのは、1906年にアルツハイマー博士がアルツハイマー病を特定したときにもアルツハイマー病患者の脳に見られる脂肪の蓄積に言及されているためです。 しかしながら、脂質の生化学の複雑さゆえに、アルツハイマー病患者の脳に見られる脂肪蓄積はこれまでほぼ無視されてきました。

今回の発見は「肥満や糖尿病が末梢性の代謝病であるのと同様にアルツハイマー病が脳性の代謝病である」という説を支持するものです。

研究の内容

今回の研究では、アルツハイマー病で死亡した患者9人の脳を調査しました。 その結果、アルツハイマー病患者の脳には健康な脳(5人分)に比べて多くの脂肪滴が蓄積していることが明らかになりました。

さらに質量分析法を用いて脂肪滴を調べたところ、脂肪滴の成分がトリグリセライド(中性脂肪)とある種の脂肪酸であることが判明しました。 この「ある種の脂肪酸」というのは動物性脂肪や野菜油にも含まれている脂肪酸です。

マウス実験

ヒトのアルツハイマー病に相当する疾患に罹りやすい体質のマウスでは脂肪酸の蓄積がとても早く、ヒトの20代に相当する生後2ヶ月の時点で既に蓄積していました。

この結果から研究チームは、アルツハイマー病の結果として脂肪酸が蓄積するのではなく、脂肪酸が蓄積するためにアルツハイマー病が促進されるのだと考えています。

研究者は次のように述べています:
「この研究では、①脂肪酸が脳により生産されること、②正常な老化のプロセスでも脂肪酸が蓄積すること、そして③アルツハイマー病になりやすい遺伝子を持っている場合には脂肪酸の蓄積が早まることが明らかになりました」
対処法は既にある?
幸いにも、これらの脂肪酸を生産する酵素を阻害する薬剤がすでに存在します。 この薬剤というのは肥満などの代謝病の治療薬として試験中の分子なのですが、これをアルツハイマー病の治療に使えるかもしれません。
「マウス実験では、この薬剤を用いてアルツハイマー病に罹りやすいマウスの脳における脂肪酸の蓄積を防ぐことができました。 この薬剤がアルツハイマー病の全体にどのような影響を及ぼすかは未だ不明ですが、少なくとも幹細胞(*)の活性は有意に増加しました。 幹細胞は学習・記憶・(脳神経の?)再生において重要な役割を果たしているため、この結果は非常に有望です」
(*) 研究チームの当初の目的は、アルツハイマー病患者の脳では幹細胞が脳の損傷を修復しようとしない理由を突き止めることでした。 アルツハイマー病になりやすいマウスの脳で脂肪滴が見つかったのも脳の内部表面に存在する幹細胞の付近でした。