アルツハイマー病の原因は免疫機能の誤作動?

(2016年5月) "Science Translational Medicine" 誌に掲載された Massachusetts General Hospital(米国)の研究により、アルツハイマー病患者の脳に蓄積するアミロイドβという毒性のタンパク質がマウス、回虫、および培養したヒトの脳細胞においては感染症に対する保護効果を発揮することが明らかになりました。

今回の結果から、アミロイドβはやはり自然免疫系(*)の一部であり、アミロイドβのプラーク(蓄積)を除去するという治療法には限界があるのではないかと考えられます。
(*) 免疫系の一種。 獲得免疫系に比べて病原菌に対する反応は早いが効率は悪い。
これまでの研究
今回の研究チームが 2010年に発表した研究では、抗微生物ペプチド(AMP)(*)に見られる性質のうちの多数をアミロイドβが備えていることが明らかにされています。 2010年の研究では、人為的に合成したアミロイドβを用いて複数の主要な病原菌の増殖を抑えたり、アルツハイマー病患者の脳から採取したアミロイドβを用いてカンジダ菌の増殖を抑えたりすることに成功しました。
(*) 自然免疫系の一翼を担う物質で、様々な病原菌から人体を守ってくれる。

その後も他の研究チームが、合成アミロイドβにインフルエンザやヘルペスのウイルスを抑制する作用のあることを報告しています。

今回の研究

マウスの脳をサルモネラ菌に感染させるという実験において、遺伝子改造によりヒトのアミロイドβを作り出すようになったマウスは、普通のマウスよりも長期間にわたり生存しました。 また、アミロイドβの前駆体にあたるタンパク質を持たないマウスは早々に死亡しました。 回虫とカンジダ菌およびサルモネラ菌を用いた実験でも同様の結果となりました。

さらに、培養したヒトの脳細胞にアミロイドβを作らせるという実験では、合成のアミロイドβよりも生きている脳細胞が作り出した天然のアミロイドβの方が感染症に対して千倍も効果的であるという結果になりました。 そして、人工のアミロイドβと天然のアミロイドβの効果の違いは、アミロイドβがアルツハイマー病を引き起こすと考えられている性質それ自体にあるようでした。

アミロイドβとAMPの類似点

この性質とは、小さい分子が組み合わさってオリゴマーと呼ばれる分子の塊を形成するという性質のことです(人工のアミロイドβはオリゴマーを形成しない)。 オリゴマー同士が凝集したものがアミロイドβのプラークです。

AMPもオリゴマーを形成することによって病原体を殺します。 AMPのオリゴマーが病原菌の表面に結合して凝集体を形成することによって、病原体がホスト(人体など)の細胞の表面に付着できないようにし、同時に病原体の細胞膜を破壊して病原体を殺します。

今回のマウスや回虫の実験では、アミロイドβの場合にもオリゴマーが凝集してフィブリル(アミロイドを形成する不溶性の繊維)になる際に病原体を捕らえることが確認されました。

解説

AMPも様々な病気の発生に関与しています。 例えばAMPの一種であるLL-37は、リウマチ関節炎や動脈硬化など高齢者に見られる疾患に関与しています。 リウマチや動脈硬化に見られる慢性炎症を引き起こすAMPの機能不全と同種の機能不全が、アルツハイマー病に見られるアミロイドβの神経変性作用に関与している可能性が考えられます。

つまり、脳が病原体に攻撃されていると誤認するためにアルツハイマー病が生じているのかもしれないというわけです。 何らかの微生物(細菌・ウイルス・カビ)がアルツハイマー病患者の脳においてアミロイドβのプラーク蓄積を引き起こしている可能性も考えられます。