抗鬱剤の臨床試験の被験者には実情が反映されていない

(2015年7月) "Journal of Psychiatric Practice" に掲載されたカンザス大学などの研究によると、抗鬱剤承認のための臨床試験(ART)に被験者として選ばれる人と実際の平均的な抑鬱患者との間には大きな隔たりがあると思われます。 この研究で、抑鬱患者の80%がARTの被験者として不適格となることが明らかになったのです。出典: Antidepressant Trials Exclude Most 'Real World' Patients with Depression

被験者を選定する理由

ARTでは一定の基準を設けて性質が似通った患者のみを被験者として選定します。 このような選定には、①抗鬱剤の効果が検知される確率を増加させ、②存在しない副作用が誤って検知される確率を減らす効果があります。 例えばARTでは一般的に、抑鬱以外にも健康問題を抱えている患者を被験者から除外します。 試験期間中にその健康問題が悪化した場合に、それが抗鬱剤の副作用のためだとされかねないからです。

研究の方法

今回の研究では、被験者の選定基準が緩いことで知られるSTAR*D(Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression)という抑鬱治療関連の試験の被験者4千人超に、一般的なARTの選定基準を適用してみました。

結果

その結果、現在のARTの選定基準ではSTAR*Dの被験者(一般的な抑鬱患者の層をリアルに反映している被験者)の82%が被験者から除外されるという結果になりました。

その内訳は、年齢(65才超である)のみを理由として除外されるのが14%、抑鬱が軽症であるという理由で除外されるのが15%、抑鬱以外の健康上の問題を理由として除外されるのが20%、避妊薬を利用しているという理由で除外されるのが21%といった具合です。

実際には90%超が除外?

最近のARTでは今回用いた選定基準よりも厳しい基準を用いることが多く、このようなARTの選定基準を適用すれば除外率は90%を超えることになります。

試験参加に同意する時点でバイアス
STAR*Dの被験者にしても被験者となることに同意しているわけですが、研究チームによると、抑鬱患者の多くは被験者になることを望まないと思われます。
被験者となることに同意する患者のみを被験者として集めているという時点で、被験者群が特定の精神状態にある患者に偏っているということでしょうか。
解説

抗鬱剤がARTで示されたほどの効果を示さないことが多いのは、ARTの被験者群が実際の抑鬱患者群を反映していないからかもしれません。

研究チームは次のように述べています:
「当然のことながら、ARTから被験者として除外される患者の数が多いほど、ARTの結果が世間一般の抑鬱患者に当てはまらない確率が高くなります」