コンテンツの利用をお考えの方は引用・転載をするときのルールをご確認ください。
Copyright (c)2013-2017 最新健康ニュース All Rights Reserved.

鉄分不足で鬱症状のリスクが増えないどころか...

(2015年7月) "Nutrients" 誌に掲載されたオタゴ大学(ニュージーランド)の研究で、鉄分不足によって鬱症状のリスクが増えないばかりか、男性では体内の鉄分量が多い方が鬱症状の程度がひどいという結果になりました。
Aimee C. Richardson, Anne-Louise M. Heath, Jillian J. Haszard, Maria A. Polak, Lisa A. Houghton and Tamlin S. Conner. Higher Body Iron Is Associated with Greater Depression Symptoms among Young Adult Men but not Women: Observational Data from the Daily Life Study. Nutrients 2015, 7(7), 6055-6072; doi:10.3390/nu7085270 (Licensed under CC BY 4.0)
鉄と鬱の関係
モノアミン仮説

鉄はチロシン(アミノ酸の一種)やトリプトファン(これもアミノ酸)の合成に関与しています。 チロシンはドーパミンとノルアドレナリンの元となる物質であり、トリプトファンはセロトニンの元となる物質です。

そして、ドーパミンとノルアドレナリンとトリプトファンはいずれも神経伝達物質であり、これらが不足すると抑鬱が生じるとするのがモノアミン仮説です。

グルタミン仮説

最近になって浮上した別の説(グルタミン仮説)でも鉄は関与します。 こちらの説ではグルタミン酸作動性系の不具合が鬱の原因だと考えますが、鉄はグルタミン酸塩の生産と分泌にも関与しています。

鉄不足と鬱の関係を調べた研究

このような訳で、鉄不足(や鉄欠乏性貧血)と鬱の関係を調べた研究がこれまでに複数行われていますが、確定的と言えるほどのデータは存在していません。

鉄不足により幸福感が損なわれたり鬱症状が増加するという結果になったものの研究方法に問題(今回の研究では対処されている)があったり、鉄不足と幸福感や鬱症状とは無関係であるという結果になった研究が多く存在するためです。

研究の方法

今回の研究では、体内に存在する鉄分の量と鬱症状・日頃の気分・日頃の倦怠感・集中困難・ストレスとの関係を調査することを目的としました。

17~25才の男女(女性562人、男性323人)を対象に、鬱症状の有無を調べたうえで気分などの精神状態の調査を13日間にわたり毎日行いました。 さらに、血液検査を行って体内の鉄分の量を調べました。

鉄分量の状況
女性
女性では大部分(79.2%)で鉄分が十分であり、鉄欠乏性貧血の女性はわずか2.1%でした。 体鉄分値(*)は-10.7mg/kgから13.5mg/kgという範囲でした。

(*) 「体鉄分値」は "body iron value" を訳したもの。 "body iron value" はフェリチン(鉄貯蔵タンパク質)やsTfR(可溶性トランスフェリンレセプター)の測定値などを用いた難しい数式から算出されます。(この数式については「2.4. Biochemical Assessment」を参照)

したがって体鉄分値の1mgというのは、人体に含まれる鉄分のうちの1mg(人体には 4,000mgほどの鉄分が存在します)というのとは異なる数字です。
男性

男性でも大部分(97.5%)で鉄分が十分であり、鉄欠乏性貧血の男性は0.6%のみでした。 体鉄分値は-3.9mg/kgから17.7mg/kgという範囲でした。 鉄のサプリメントを服用して男性は2.2%でした。

結果

女性では体内の鉄分量と精神状態とのあいだに関係は見られませんでした(鉄分不足で精神状態が悪化していなかった)。

そして男性では、鉄分不足で精神状態が悪化していなかったどころか、研究チームにとっても意外なことに体内の鉄分量が多いと鬱症状がひどいという関係が見られました。 体鉄分値が体重1kgあたり1mg増えるごとに鬱症状のスコア(発症率ではない)が3.4%悪化していたのです。

この結果は、BMI・運動量・飲酒量・経口避妊薬の使用などの要因を考慮した上でのものです。

考えられる理由

男性において鉄分が多いと鬱症状がひどくなっていた理由としては、鉄による酸化ストレスの増加が考えられるかもしれません。

鉄がフェントン反応と呼ばれる化学反応により活性酸素種(ROS)を作り出し、そのROSによって酸化ストレス(*)が生じることが複数の生体研究により示されています。
(*) 酸化ストレスとは活性酸素種(ROS)と抗酸化物質のバランスが崩れた状態のことで、糖尿病・高血圧・加齢によるガンなどのリスク要因であると考えられています。 ROSは細胞が有害な環境にさらされたときに作られます。
そして複数の研究において、男女を問わずフェリチンの血中濃度が高い(体内の鉄分量が多い)場合に酸化ストレスがDNAにもたらすダメージが増加するという結果になっています。 さらに、酸化ストレス自体も鬱症状の一因となっている可能性があります。