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顔のシワと鬱の関係

シワ取り薬 Botox

ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)という細菌の作り出すが作り出すボツリヌス毒素は、現在知られている最も強烈な急性毒物で、ヒトにおける致死量は、静脈注射または筋肉注射では 1.3~2.1 ng/kg、吸入した場合では 10~13 ng/kg と推測されています。

このように猛毒のボツリヌス毒素ですが、その神経毒性を利用したがシワ取り用の美容品があります(商品名 "Botox")。 A型ボツリヌス毒素を顔の筋肉に注射すると筋肉が麻痺するためにシワが消滅します。 Botox のシワ取り効果は3~4ヶ月だそうですが、毒として考えると3~4ヶ月も後遺症が残るということになります。 恐ろしいですね。

Botox はシワ取りだけでなく、偏頭痛頸部ジストニアの治療にも用いられるようになっています。 いずれも筋肉を麻痺させることで緊張を解くのでしょうか。

Botox の抗鬱効果
2014年の研究

そんな Botox が鬱病に有効である可能性を示す研究として、2014年に "Journal of Psychiatric Research" に掲載されたものがあります。 この研究は Georgetown Medical School によるもので、Botox を一回使用するだけで50%の近くの患者で鬱症状が軽減されるという結果になっています。

この研究で74人を2つのグループに分けて、Botox またはプラシーボを眉間に注射するという大規模な臨床試験を行ったところ、6週間後には Botox のグループでは47%の人が鬱症状が軽減されていたのです。 ただし、プラシーボのグループでも21%の人で鬱症状が軽減されていました。

研究者は次のように述べています:
「今回の研究は、顔の表情が気分に作用するというフィードバック理論を支持する結果となりました」
2012年の研究

2012年にも Chevy Chase Cosmetic Centre という研究所が同様の研究を発表しています。

この研究では、抗鬱剤が効かない重度の鬱病患者 84人(鬱病の平均罹患期間は2年間)を2つのグループに分けて、一方のグループには Botox を、そしてもう一方のグループにはプラシーボを注射しました。

注射をしてから三週間めと6週間めに効果を測定したところ、Botox を注射されたグループでは27%が鬱症状が消滅したと回答したのに対して、プラシーボのグループで鬱症状が消滅したと回答したのは7%だけでした。

Botox が鬱に効く仕組み

これらの研究の背景にある原理は、Botox により顔の筋肉を麻痺させて、眉をひそめた表情や、しかめっ面をできなくすると、ネガティブな感情や鬱が生じなくなる(フィードバック効果)というものです。 感情が表情に表れないというのは、そもそも Botox の副作用だったのですが、研究グループはそこに目をつけたのでしょう。

ただし、Botox(に含まれる毒素)が免疫系などに作用したためにこのような結果になった可能性も否定できません。

シワを取る場所によっては逆に鬱に

同じ Botox による「顔の表情→気分」のフィードバックで、逆に鬱になるとする研究もあります。 目じりのシワを取るのに Botox を使用すると、目じりのシワを取った後に気分が暗くなるというのです。

この研究はカーディフ大学(英国)の研究チーム 2013年4月に "British Psychological Society's Annual Conference" で発表したもので、Botox でシワを取った25人にアンケートに回答してもらったところ、目じりのシワを取った人はオデコのシワを取った人に比べて、鬱傾向が強いという結果でした。

目じりのシワを取ろうとして麻痺させる筋肉は、美しい微笑を作るのに必要となる筋肉です。 目じりのシワを取ると、きっちりと微笑めなくなるために幸福感が減るのだと考えられます。

研究者は次のように述べています:

私たちが顔に出す表情は感情を反映したものですが、逆に顔の表情が感情に影響を与えもします。 幸せだから微笑む、しかし微笑むことによって幸せにもなるのです。 Botox などの薬品による治療を受けた患者は、特定の表情を作ることが出来なくなります。

Botox で額(ひたい)のシワを消すと、しかめっ面をきっちり出来なくなり、それまでしかめっ面をするときに(フィードバック効果によって)感じていたネガティブな感情を感じ難くなるのです。
顔の表情は他にも影響が

2011年に南カリフォルニア大学で行われた研究によると、Botox には、表情で感情を表現できなくする効果だけでなく、他人の気持ちを理解できなくする効果もあったそうです。

この他人の気持ちを理解できなくするという Botox の効果が自分の表情が乏しくなることに起因しているのであれば、Botox を使っていなくても、表情が乏しい人ほど、他人の気持ちに鈍感だったり、空気が読めなかったりするのでしょうか?