乳ガン腫瘍と正常な組織とでは存在する細菌やウイルスが異なる

(2015年10月) "Scientific Reports" 誌に掲載されたペンシルバニア大学の研究により、トリプル・ネガティブ乳ガン(以下「トリネガ乳ガン」)の腫瘍と正常な組織とでは存在する微生物の種類が異なることが明らかになりました。 この発見は、乳ガンの早期発見や治療効率の向上につながるかもしれません。

研究の方法

PathoChip と呼ばれ6万の分子プローブを備えるマイクロアレイ技術を用いてトリネガ乳ガン患者100人から採取した乳ガン腫瘍の組織サンプルをスクリーニングして、細菌・ウイルス・寄生虫・真菌(カビ)などの微生物の存在を調べました。 比較対照用として、トリネガ乳ガン患者の腫瘍付近から採取した健康な組織の20のサンプルと健常者の乳組織の17のサンプルも同様に調査しました。

結果
トリネガ乳ガンの組織と正常な組織とでは、微生物シグネチャー(*)が異なっていました(†)。 トリネガ乳ガンの細胞から高率で検出された微生物は次のようなものでした:
  • ウイルス: ヘルペスウイルス、パラポックスウイルス、レトロウイルス、ヘパドナウイルス、ポリオーマウイルス、パピローマウイルス
  • 細菌: アルカノバクテリウム属、ブレブンディモナス属、スフィンゴバクテリウム属、ゲオバチルス属
  • 真菌: プレイストフォラ属、ピエドライア属、フォンセセア属
  • 寄生虫: 鞭虫属

(*) "microbial signature" を訳したもの。 「シグネチャー」は署名という意味で、何かを他の同種の何かから識別するのに用いれる特性のこと。

(†) 微生物シグネチャーが異なっていたといっても、グラフを見ると、正常な組織(乳ガン患者から採取したものも健常者から採取したもの)にはあまりウイルスや細菌が存在しないようです。(赤色や青色が分布するページ左側の図において、「NC」が健常者の組織サンプルで、「MC」がトリネガ乳ガン患者の健康な組織のサンプル)

さらに、微生物シグネチャーのタイプによってトリネガ乳ガンを大きく2種類に分けることができました。 トリネガ乳ガンのうちに、ウイルスおよび真菌が多いタイプのものと、細菌が多いタイプのものが存在したのです。(参考図

解説

トリネガ乳ガンの組織からウイルスや細菌などの病原体が検出されたからといって、そのような病原体がガンを引き起こしているとは限りません。 病原体が細胞のミクロ環境に影響して傷んだ細胞のガン化を促進している可能性も考えられますが、特定の病原体が腫瘍が形成された後の環境を好んで住み着いているだけという可能性も考えられます。

実用性

まず、ガンの早期発見に利用できる可能性があります。 研究チームは現在、血液サンプルから微生物シグネチャーを判定できないかどうかを調べています。 仮にそれが可能であれば、血液検査でガンのリスクが高い人を特定できる可能性があります。

さらに、今回検出された微生物の多くは薬物(抗がん剤)を代謝(無効化)するため薬物の効果を損ないかねないのですが、微生物シグネチャーに応じて患者ごとに治療効果の高い薬を選択できるようになるかもしれません。