薄い濃度の酢でも火傷の感染症に効果

(2015年9月) "PLOS ONE" に掲載されたバーミンガム大学などの研究により、酢酸(酢の成分)が低濃度であっても火傷の患部にはびこる微生物に対して抗菌作用を発揮することが確認されました。

研究者は次のように述べています:
「酢酸すなわち酢は6千年前から医療に用いられており、ペストや、耳・胸・尿路の感染症の治療に効果を発揮してきました。 酢酸は古来より抗菌剤として利用されてきたというわけです。 今回の研究は、酢酸が安価で効果的な抗菌剤として活用されるうえで道標となる科学的な証拠を提示するものです」
火傷と抗生物質

火傷は外傷の一種で、患部の皮膚バリアが失われているため感染症にかかりやすい状態です。 局所的な感染症だけでなく、敗血症(感染症が全身にまわった状態)にも注意が必要です。 敗血症は火傷の患者が死亡する一番の原因です。

ところが火傷の患部には抗生物質を投与しにくいため、火傷に生じた感染症は治療が困難です。 加えて、感染症の原因となる微生物も薬剤耐性を有していることが少なくありません。
研究の方法
火傷患者に見られる感染症を引き起こす病原体の中でも一般的な29種類(*)を対象に、非常に薄い濃度の酢酸でも①病原体の増殖阻止、③バイオフィルム(†)形成阻止、③既に形成されたバイオフィルムの根絶といった効果を発揮するかどうかを調べました。

(*) Pseudomonas aeruginosa、Acinetobacter baumannii、Staphylococcus aureus、Enterococcus faecalis、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Enterobacter spp. など。

(†) バイオフィルムとは無数の細菌が寄り集まってコミュニティーを形成したもので、細胞外ポリマー(EPS)と呼ばれる高分子膜によりコミュニティー全体が覆れ外界から守られています。 バイオフィルム中に存在する細菌の抗生物質に対する耐性は、遊離している細菌の千倍にも及びます。

バイオフィルムは傷口のほかカテーテルなどの医療器具にも形成されます。 感染症の80%は遊離細菌ではなくバイオフィルムによるものです。

歯垢や水垢もバイオフィルムです。 バイオフィルムは一種類の細菌で形成されていることもありますが、複数種類の細菌で形成されていることも多く、歯垢には一般的に500種類もの細菌が含まれています。
結果

0.16%~0.3%という低濃度の酢酸でも、29種類すべての病原体について上記の3つの効果を発揮しました。 病原体に酢酸を暴露させた時間は3時間でした。

解説

酢酸が現在のところ医療の現場であまり用いられていないのは、医療に用いられる酢酸の濃度が高濃度(2.5%)で患者にとっての負担が大きい(臭いが耐え難い?)からです。

病原菌の抗生物質への耐性が問題となっている現在、抗生物質の代わりとなる薬剤が求められていますが、従来必要と考えられてきたよりも遥かに低濃度の酢酸でも病原体に対して有効であることが今回の研究で明らかになったため、今後は酢酸を患部に塗布する薬剤や抗菌包帯の成分として利用できるようになるかもしれません。

ただし、細菌が酢酸に対しても耐性を獲得する場合に備えて、酢酸に長時間暴露させたときに細菌がどのように適応あるいは進化するのかを調べておく必要があります。

民間療法としての酢の利用
研究チームは、民間療法として酢を利用することに対しては否定的で、火傷をしたときには自分で患部に酢を塗ったりせずに病院に行くことを勧めています。 火傷に対して酢が効果を発揮するのは感染症が問題となるような重症の火傷だけ(火傷を治すというより患部の殺菌)なので、どのみち病院に行く必要があります。