ガン細胞は蓄えた脂肪を増殖に利用する

(2016年6月) "Cancer Research" 誌に掲載されたルンド大学(スェーデン)の研究により、一部のガン細胞が脂肪滴を蓄積すること、そしてそれによってガンの侵攻性(増殖の速さ)が増して腫瘍が広がりやすくなるようであることが明らかになりました。

休眠中に蓄えた脂肪で増殖
ガン腫瘍の内部は酸素不足・低pH・栄養不足のため(ガン細胞にとって)厳しい環境にあります。 そのような厳しい環境で生存しているガン細胞は「ストレス細胞」(*)と呼ばれ侵攻性が強いと考えられています。
(*) stressed cells(ストレスを受けている細胞)
研究者は次のように述べています:
「ストレス細胞は腫瘍の内部で生存するために休眠状態に入り、この状態になると放射線治療も化学療法も届かなくなります。 しかし休眠状態にあるストレス細胞であっても脂肪滴の蓄積は継続されます。 そうして蓄積した脂肪滴は、ストレス細胞が休眠状態から抜け出したときに増殖したり広がったりするための燃料源として使われます」
"Cancer Research" 誌に掲載された論文に添付されている写真では、脂肪細胞に似るガン細胞が腫瘍内部の酸素が不足している(細胞がストレスを受けている)場所に寸分たがわず位置している様子が示されています。
ガン性腫瘍の細胞に、ガン細胞の視点で見て「良い時期」と「悪い時期」があるということは以前から知られていました。 ガン細胞にとっての「良い時期」とはガンが広がってガンを再発させられる時期のことです。
「血流中に入り込んだガン細胞のうちガンの転移を引き起こすものはごく一部ですが、最も転移を引き起こしやすいガン細胞というのは脂肪細胞に似ているガン細胞(*)ではないかと思います。 このようなガン細胞は脂肪滴をエネルギー源として、細胞膜を構築したり、シグナル伝達を行う物質を作ったり、これらの両方を行ったりすることができます」
(*) 休眠状態にあったときに脂肪滴を蓄積したガン細胞のことでしょう。
既知の事実との符合

今回示された脂肪とガンとの関係は、肥満によって一部の種類のガンの発症リスクが増加するという事実とも合致します。 肥満者は血流中に存在する脂肪粒子の量が多いのですが、ストレス下にあるガン細胞がこの脂肪粒子を利用できる可能性があります。 肥満のガン患者では腫瘍の侵攻性が強まることも知られています。

実用性

今回の発見はガン細胞の拡散(転移)を抑制するのに利用できる可能性があります。 ストレス細胞において脂肪の蓄積がどのように行われるかが明らかになれば、ガン細胞が余計なエネルギーを入手するのを防ぐことも可能です。

ガン細胞の脂肪蓄積を既存の薬を用いて防げる可能性もあります。 ヘパリンという抗血栓薬に、ガン細胞が脂肪粒子を取り込む量を減らす効果のあることが知られています。

研究チームは次のように述べています:
「何千人ものガン患者を被験者とする複数の研究で、ヘパリンを投与したときの方が転帰(アウトカム)が良好であることが示されている。 ヘパリンのガン治療効果を調べる臨床試験も複数が進行中である。 ヘパリンがガン治療に有効であるとすれば、その理由の一部はヘパリンがストレス細胞による脂肪の蓄積を阻止するためかもしれない」