(2018年9月) "Cancer" 誌に掲載されたIKNL(オランダ)などによる研究で、ガンの予後に関して楽天的な患者は生存率が高いという結果になりました。
研究の方法
結腸・直腸・前立腺・子宮内膜・卵巣のガンまたは非ホジキンリンパ腫と診断されてからの経過年数が5年未満の患者 2,457人(平均年齢68才)を次の3つのグループに分けて死亡リスクを比較しました:- 病状に対する認識(IP)が予後(腫瘍の種類/ステージ・年齢層・性別を考慮したサバイバー5年生存率)と合致する現実的なグループ(1,230人、平均追跡期間は10.6年間)
- IPが予後よりも楽天的なグループ(582人)
- IPが予後よりも悲観的なグループ(645人)
病状に対する認識(IP)
IP(illness perception)は、Brief Illness Perception Questionnaire というアンケートで調べました。 アンケートの内容は、この記事の最後に記載しています。調査期間
調査期間は、上記のアンケートを実施した 2009年3月~2014年4月から、2017年2月1日または患者が死亡するまででした。
3つのグループのデータの量が現実的グループで 6,194人年(人数×年数)、楽観的グループで 3,159年、および悲観的グループで 3,065人年ということなので、調査期間の平均年数は現実的グループが5年、楽観的グループが5.4年、および悲観的グループが4.75年という計算になります。
結果
IPが現実的なグループに比べて、IPが楽観的なグループは死亡リスク(死因を問わない)が28%低くHRQOL(健康関連の生活の質)も良好でした。 IPが悲観的なグループは逆に、IPが現実的なグループよりも死亡リスクが52%増加していました。
解説
「楽天的であると免疫力に良い影響が~」というような仮説を期待していたのですが、この記事の元となった研究論文に "immunity(免疫)" の "immu-" の字もろくに出てきません("immune therapy" という語に使われていただけ)。
今回の結果を説明する仮説として、研究グループは次のように述べています:- IPが悲観的だとアウトカムが良くない(死亡リスクが高い)のは、"passive coping"(*) のために不安で心が一杯になったり無力感や絶望感が生じたりしてしまうためかもしれない(不安・無力感・絶望感によりアウトカムが悪化するメカニズムについては触れられていない)
- 病院が入手したデータから推定される予後よりも、病状や生活環境(経済状況なども含む)など患者を取り巻く全ての要因をひっくるめた総合的な状況から患者本人が直感的に認識している予後のほうが正確なのかもしれない。
研究グループは「診断や予後に関する情報を患者に提供するときには(患者が悲観的とならないように)注意が必要かもしれない」と述べています。 これは1つ目の仮説の「悲観性/楽観性がガンの予後を左右する」という考えに基づくものでしょう。
研究グループは「IPが悲観的な患者をとにかく励まして楽天的にすれば良いというものではなく、IPが悲観的になっている理由を追求することが重要だろう」とも述べています。 こちらは2つ目の仮説の「悲観性/楽観性はガンの予後に影響するものではなくガンの予後の表れである。ガンの予後の推定において患者の悲観性/楽観性もヒントになる」という考えに基づくものでしょう。
IPを調べるアンケートの内容
このアンケートの質問項目は次の9つです:- あなたの病気は生活にどの程度影響していますか? (まったく影響なし~ひどく影響している)
- ご自分の病気がどの程度続くと思いますか? (とても短期間~永遠)
- 病状がどれくらい自分の思い通りになっていると思いますか? (まったく思い通りにならない~とても思い通り)
- 治療がどれぐらい効果を発揮していると思いますか(まったく発揮していない~とても発揮している)
- 病気の症状はどれくらいですか? (まったく症状を感じていない~ひどい症状がたくさん出ている)
- ご自分の病気をどれくらい心配していますか? (まったく心配していない~ひどく気に病んでいる)
- ご自分の病気をどれくらい理解していますか (まったく理解していない~とても明確に理解している)
- ご自分の病気が感情面にどれくらい影響して(怒り・恐れ・動揺・抑鬱を引き起こして)いますか? (まったく影響していない~ひどく影響している)
- ご自分の病気の原因になったと考えられるもののうち最も重大なものを3つ挙げてください:1.____ 2.____ 3.____