ボツリヌス毒素で神経を麻痺させるとガン細胞が弱る

(2014年8月) "Science Translational Medicine" 誌に掲載されたコロンビア大学医療センターや岐阜大学などの研究によると、胃ガンにおける腫瘍の成長には神経が深く関与しており、神経のシグナル伝達を遮断するのが胃ガンの治療に効果的であると考えられます。 シグナル伝達の遮断には、手術以外にボツリヌス毒素という神経毒参考記事: 顔のシワと鬱の関係も用いることが出来ます。

研究者は次のように述べています:

「ヒトやマウスのガン腫瘍の内部および周辺部に多数の神経が存在することは以前から知られていました。 今回の研究では、胃ガンを対象に、ガンの発生および成長において神経が果たす役割を解明することを目的としました」


マウスの胃の神経を切除
研究チームはまずマウス実験で、迷走神経切離と呼ばれる手術によりマウスの(胃の)神経を切除しました。 すると、腫瘍の成長速度が鈍化して、生存率が増加しました。

一方、胃の片側からのみ神経接続を除去したマウスでは、もう一方(神経を除去しなかった側)で腫瘍の成長が継続しました。 この結果から、腫瘍の成長において神経の存在が重要であるエビデンスが得られました。

マウスに Botox を投与
研究チームは次に、Botox と呼ばれるボツリヌス毒素由来の薬物を用いて神経のシグナル伝達を化学的に遮断してみました。 その結果、Botox でも手術と同程度に、マウスの胃ガンの成長を減少する効果が見られました。

「神経のシグナル伝達を遮断することによってガン細胞が弱体化しました。 癌細胞の成長を制御する重要な因子の1つが除去されたのです」


Botox には、神経細胞がアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質を放出するのを妨げる作用があります。 美容目的のシワ取り薬として用いた場合、Botox はアセチルコリンを遮断して顔の筋肉を一時的に麻痺させることによって、シワを緩和します。

アセチルコリンには細胞分裂を促進する作用もあるので、Botox を用いてアセチルコリンが(ガン細胞に向けて)放出されるのを遮断することによって、ガンの成長が鈍化するのだと考えられます。

ヒトの胃の神経を切除
さらに、手術から何年も経ってから胃ガンが再発した患者37人のうち13人に迷走神経切離術を施し、残りの24人と比較したところ、迷走神経切離術を受けたグループでは一人を除いて神経が切断された領域において腫瘍が発生しなかったのに対して、迷走神経切離術を受けなかったグループでは全員で同じ領域に腫瘍が発生しました。

今後
研究チームは今後、神経をターゲットとする治療と他の治療法とを組み合わせた場合の効果を調べる予定です。 初期実験(上記の実験とは別のもの?)では、神経を遮断することによってガン細胞が薬剤に弱くなることが示されています。 Botox を化学療法と併用することで、化学療法だけの場合と比べて、マウスの生存率が最大で35%増加しました。

研究チームは、神経伝達物質の受容体を遮断する薬を開発したいと考えています。 今回の研究は初期の胃ガンを対象に行われましたが、このような薬が開発されれば、湿潤性の強い(進行した)ガンに対しても手術や Botox 以上に有効となることが期待されます。 神経伝達物質の受容体を遮断するというアプローチであれば、元の腫瘍から分離したガン細胞にも効果が届くはずだからです。