(2016年10月) トウガラシの成分であるカプサイシンに食欲を抑える効果のあることが知られていますが、"The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism" に掲載された第三軍医大学(中国)の研究によると、トウガラシのこのような効果が発揮されるかどうかには腸内細菌の種類構成の個人差が関係しているようです。
中国に住む健常者12人を3つのグループに分けて、チリ・パウダー由来のカプサイシンを0mg・5mg・10mgいずれかの量で含有する食事を6週間にわたり続けてもらいました。 食事に含まれるカロリーは、それまでの体重が維持される程度のものとしました。
- GLP-1とGIP(*)の血中濃度が上昇し、グレリン(†)の血中濃度が低下していた。
- 腸内において、バクテロイデス門の菌の量に対するファーミキューテス門の菌の量が増えていた(‡)。
- 腸内において、ファイカリバクテリウム属の細菌(§)が増えていた。
(*) GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)もGIP(胃抑制ポリペプチド)も、インクレチンと呼ばれる消化管ホルモンの一種で、インスリンの分泌量を増加させる作用があるほか、食欲を抑制する効果もあると考えられています。 ただし、GIPの食欲抑制効果について調べた研究は数少なく、それらの結果も一致していません。
(†) グレリンは胃で作られるホルモンで、食欲を増進させる作用があります。
(‡) 肥満者の腸内にはファーミキューテス門の菌が多く存在し、普通体重の人の腸内にはバクテロイデス門の菌が多く存在するという傾向があります。
(§) クロストリジウム綱の細菌の一種で、食物繊維から短鎖脂肪酸を作り出すのが得意。 クロストリジウム綱はファーミキューテス門の下位に位置するカテゴリー。
生物の分類は、界 > 門 > 綱 > 目 > 科 > 属 > 種。被験者のエンテロタイプ(下記)とカプサイシンの作用との関係について調べたところ、 今回の被験者のエンテロタイプは1型と2型だけで、上述のカプサイシンの効果は主にエンテロタイプが1型の人に見られました。
カプサイシンを6週間にわたり摂取したのち、エンテロタイプが1型だった人は2型だった人よりもファイカリバクテリウム属の細菌と酪酸塩(*)が多くなっていました。- 1型: バクテロイデス属の菌が多い。
- 2型: バクテロイデス属の菌が少なくプレボテラ属(バクテロイデス門の下位カテゴリー)の菌が多い。
- 3型: ルミノコッカス属(クロストリジウム綱の下位カテゴリー)の菌が多い。