心臓病予防で重要なのはHDLの量よりも能力

(2015年5月) "The Lancet Diabetes & Endocrinology" 誌に掲載されたペンシルバニア大学の研究によると、善玉と言われるHDL(高密度リポタンパク質)と心臓病のリスクとの関係において重要なのはHDLの量よりも能力です。
「HDL」と「HDLコレステロール」

このニュースでは「HDLコレステロール」ではなく「HDL」という言葉が使われていますが、この「HDL」というのは「高密度リポタンパク質」ことで、コレステロールを輸送するための器のようなものです。

「HDLコレステロール」の明確な定義は不明ですが、HDLに運ばれているコレステロールあるいはコレステロールを輸送中のHDLが「HDLコレステロール」と呼ばれるのでしょう。 「HDL」と「HDLコレステロール」の区分がなされていないような記述も見かけます。

HDLには血管壁に付着している脂肪を除去して心臓病の予防を助ける作用がありますが、複数の研究において、HDLの量を増やすだけでは必ずしも心臓病のリスクは低下しないという結果になっています。

今回の研究では、冠動脈疾患のリスクの尺度および心臓用の薬のターゲットとして、HDLの量よりもHDL分子がコレステロールを除去する能力の方が適切である可能性が示されました。

研究の方法

この研究では、英国東部に住む男女2万5千人超を対象に 1993~1997年にかけて健康診断と血液採取を実施し、その後 2009年まで追跡調査を行いました。

追跡期間中に冠動脈疾患を発症したのは 1,745人でした。 データ全体の中から①心臓疾患の兆候が無く、②この 1,745人と年齢などの点において相似する比較対照用のグループ(コントロール・グループ)を選出して冠動脈疾患を発症したグループとでHDL分子の能力(*)を比較しました(採取た血液を冷凍保存しいたものを解凍してHDL分子を検査した)。

(*) 「HDL分子の能力」とは「コレステロール流出能(cholesterol efflux capacity)」のこと。

血中に存在するHDL分子は一般的に、(動脈壁に形成される)アテローム性プラークにおいてコレステロールが詰まったマクロファージ(泡沫細胞と呼ばれアテローム性動脈硬化に見られる)からコレステロールが流出(efflux)するのを助けますが、このHDL分子の性能(コレステロール流出能)は人によって異なります。
結果

追跡調査開始の時点におけるコレステロール流出能に応じてデータを3つのグループに分けて比較したところ、コレステロール流出能が最も優秀だったグループは最も劣悪だったグループに比べて、追跡期間中に発生した心疾患イベント(心臓発作など)が36%少なくなっていました。

この36%という数字は、年齢・性別・喫煙習慣・HDL量などの要因を考慮した後のものです。

コレステロール流出能が高い人
この研究は規模が大きかったので、コレステロール流出能が高い人は飲酒をする人に多く、糖尿病や肥満の人に少ないことも明らかになりました。
研究者のコメントその他
研究者は次のように述べています:
「今回の研究では、比較的若く健康な人であってもHDL分子の能力から心臓病のリスクを判定できるという結果になりました。 またこの結果から、HDLの能力を高める治療によって心臓病のリスクを下げられるとも考えられます」
「コレステロール流出能に個人差がある理由は不明ですが、HDL粒子のサイズ・脂質含有量・積み荷膜タンパク質(protein cargo)に個人差があることが知られています。 また、心臓病や糖尿病の患者ではHDLの機能が損なわれるというエビデンスもあります」
研究チームは過去に、製薬会社が開発中のHDL量を増やす薬の中にコレステロール流出能を増強する作用を持つものがあることを明らかにしています。