寝る前に感染したウイルスは10倍も増えやすい

(2016年8月) 英国の大学などが行った研究によると、1日の時間帯によって体内に侵入したウイルスの増殖のしやすさが異なります。 体内に侵入したウイルスが、人体の各細胞に備わる概日時計(昼夜のリズムであるサーカディアン・リズムを生み出す体内時計)の関係で、1日の特定の時間帯には増殖しやすいというのです。

今回の結果から、ウイルスに感染する時間帯によって感染症の重症度が異なる可能性が考えられます。 これまでに複数の研究で、インフルエンザの予防接種を行う時間帯により予防接種の効果に差が出ることが示されていますが、今回の結果はこれらの研究の結果とも合致します。

サーカディアン・リズム

人体に侵入したウイルスは、人体の細胞に備わるメカニズムや資源を利用して増殖し体中に広がりますが、このようにウイルスが利用できる資源の量は1日を通して変動しています。 そしてこの変動には、サーカディアン・リズムも関与しています。

サーカディアン・リズムは、睡眠/覚醒のリズム・体温・免疫機能・ホルモンの放出など人体の様々な側面をコントロールしています。 そしてサーカディアン・リズムは、Bmal1やClockといった複数の遺伝子によりコントロールされています。
Bmal1は1日の時間帯だけでなく季節によっても活性が変動し、夏季には活性が増加しますが冬季には活性が低下します。 研究チームによると、Bmal1の活性の季節性は、インフルエンザが冬に流行しやすい理由の1つかもしれません。
研究の方法

マウスを複数のグループに分けて、1日のうちの異なる時間帯にヘルペス・ウイルスに感染させ、体内でのウイルスの広がり方を調べました。 マウスの生活環境は、昼と夜が12時間ずつというものでした。

結果
マウスが眠りに就くころ(*)にウイルスに感染させたときには、マウスが眠りに就いてから10時間が経過したころ(そろそろ目覚めようとする時間帯)に感染させたときに比べて、ヘルペス・ウイルスの増殖の程度が10倍も高くなっていました。
(*) マウスは夜行性なので、夜明け。
Bmal1が不在だと...

Bmal1と呼ばれサーカディアン・リズムのコントロールに関与する遺伝子がありますが、このBmal1を持たないように遺伝子改造したマウスをヘルペス・ウイルスに感染させたところ、感染の時間帯に関わらずウイルスがよく増殖しました。

細胞実験

細胞実験でウイルス感染の時間帯とウイルスの増殖との関係を調べたところ、細胞実験なので免疫系の影響が存在しないにも関わらず、マウス実験の場合と同様に時間帯によってウイルス増殖の度合いが異なっていました。

細胞実験ではさらに、サーカディアン・リズムを生み出す体内時計をヘルペス・ウイルスが自分に都合の良いように操作して感染を助長することも明らかになりました。
病原体が宿主のサーカディアン・リズムを利用するというケースは他にも知られていて、例えばマラリアという感染症を引き起こすマラリア原虫は、宿主のサーカディアン・リズムに自分が増殖するサイクルを同調させて感染の成功率を高めます。
昼夜のリズムが無くなると

マウス実験でも細胞実験でも、サーカディアン・リズムを無効化すると、感染の時間帯に関わらずウイルスの増殖力が増しました。 ヘルペス・ウイルスだけでなく、ヘルペス・ウイルスとは感染・増殖のメカニズムが大きく異なるA型インフルエンザ・ウイルスでも同様の結果でした。

研究者によると、夜勤などのシフトワークに従事している人は、サーカディアン・リズムが狂うためにウイルスに感染しやすくなるかもしれません。 仮にそうであれば、シフトワーク従事者には予防接種が特に有意義となります。