血流中に入り込んだガン細胞は単独であれば転移力は弱い

(2014年8月) "Cell" 誌に掲載された Massachusetts General Hospital(MGH)Cancer Center の研究によると、原発性の(最初に発生したオリジナルの)腫瘍から分離して血流中に入り込んだ循環性腫瘍細胞(CTC)の細胞1つよりも、2~50個の腫瘍細胞が集まった CTC クラスターの方が、はるかにガンの転移を引き起こしやすいようです。

今回の結果から、CTC クラスターを形成する腫瘍細胞同士を結び付けているタンパク質が治療ターゲットとなる可能性が示唆されます。(腫瘍細胞同士の結合をほどく薬が開発されればガンの転移阻止に有効かもしれない)

この研究では、CTC-Chip という MGH Cancer Center が開発した微少流体デバイスを用いました。(詳細略。原文には、この機械についてもう少し詳しい説明があります) この機械は、血液サンプルから CTC を採取することができます。 マウスを用いて複数の実験を行った結果、以下が明らかになりました:

  • CTC クラスターは、腫瘍が血流に入った後に増殖したものではなくて、原発性腫瘍において隣接していた腫瘍細胞のクラスターが血流中に入り込んだのだと思われる。

  • CTC 全体において、クラスターは2~5%を占める(つまり95~98%は単独のCTC)に過ぎないのに、乳ガン(マウスに人為的に導入された)から肺ガンへのガン転移の半分がクラスターによるものだった。 したがって CTCクラスターは、単独の CTC に比べて23~50倍の転移力を持つと推算される。

  • CTCクラスターと単独の CTC をそれぞれマウスに注射したところ、単独の CTC よりも CTCクラスターの方が生存率が高く、クラスターから生じた転移腫瘍により(単独の CTCから生じた転移腫瘍に比べて)(マウスの)生存率が有意に下がっていた。

  • 単独の CTC よりも CTCクラスターの方が、血流中からいなくなるのが早かった。 血流中からいなくなった CTCクラスターは恐らく、毛細血管に定着して転移腫瘍を形成しているのだと思われる。
今回の研究では、ヒトのガン患者の血液に含まれる CTC と生存率の関係も調査しました:

  • 様々なタイプの進行転移性乳癌の患者たちから複数の時点で血液サンプルを採取して検査したところ、35%の患者の血液から CTCクラスターが検出され、CTCクラスターの量が多い患者では生存率が有意に低下していた。

  • 前立腺ガンの患者たちでも同様の検査を行ったところ、CTCクラスターが存在する患者では生存率が劇的に低下していた。
複数の乳ガン患者で、単独 CTC と CTCクラスターの RNA配列を調べたところ、CTCクラスターでは複数の遺伝子が高レベルで発現していました。 そのうちの1つがプラコグロビンという細胞接着タンパク質ですが、原発性腫瘍でプラコグロビンが過剰に発現している患者では生存率が下がっていました。

一人の患者の血液と組織のサンプルを分析したところ、原発腫瘍と転移腫瘍の両方において、プラコグロビンが CTCクラスターでは発現しているのに単独の CTC では発現していませんでした。

プラコグロビンは細胞同士の結合に関与しています。 研究グループがプラコグロビンの発現を抑制することによって CTCクラスターをバラバラにしたところ、CTC の転移力が下がりました。 プラコグロビンの発現の抑制にはさらに、通常の乳房組織には影響を与えることなく、(たぶん原発性腫瘍の)乳ガン細胞同士の接触を阻害する作用もありました。

研究者によると、プラコグロビンをターゲットとする治療薬は、CTCクラスターが検出された患者に特に有効となりそうです。