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認知症の概要

認知症とは

認知症とは、特定の疾患のことではなく、思考能力や社会的な能力を阻害して日常生活が困難となるような症状群を指します。 認知症の原因は様々ですが、進行性の認知症の原因は主にアルツハイマー病です。

認知症では記憶力の低下が見られるのが普通ですが、記憶力の低下だけでは認知症とは言えません。 記憶力の低下、判断力の低下、言語障害、日常生活(買い物や外出など)を遂行する能力の欠如のうち、2つ以上の症状が表れている場合に、認知症と診断されます。

認知症の原因と種類

認知症の原因は脳の神経細胞の損傷です。 この損傷は脳の複数の場所で起こる可能性があり、損傷が起こる場所によって症状が異なります。

各種の認知症は、影響のある脳の領域などの共通点や、時間の経過とともに進行するか否かなどによって分類されています。

軽度認知障害(MCI)

軽度認知障害(MCI)とは、老化による正常な範囲内での認知機能の衰えと認知症との中間に位置する状態です。

MCIの人はアルツハイマー病などの認知症になるリスクが増加します。 1年間のうちにMCIが認知症へと進行する率は5~15%です。 しかし何年間にもわたりMCIの段階に留まり認知症に進行しないケースや、MCIが改善されるケースも存在します。

MCIは、健忘性MCI(amnestic MCI)と非健忘性MCI(non-amnestic MCI)の2種類に分類されます:
  • 健忘性MCI(aMCI)はMCIの中で最も一般的で、記憶力の低下が特徴です。 約束したことや最近の出来事を忘れたりします。
  • 非健忘性MCI(naMCI)では思考力や判断力が低下します。 複雑な手順を要することを行えなくなったり、計画を立てられなくなったりします。

進行性の認知症

  • アルツハイマー病

    65歳以上の人においては、アルツハイマー病が認知症の原因であるケースが最多です。 アルツハイマー病にかかるのは普通は60歳以降ですが、遺伝子変異が原因の場合にはもっと若いときにかかることもあります。

    アルツハイマー病には海馬健在型とよばれるタイプのものもあり、このタイプのアルツハイマー病にかかると記憶力は低下せず性格が怒りっぽくなります。
    "Aging" 誌(2015年9月)に掲載されたUCLAの研究によると、海馬健在型ではない(一般的なタイプの)アルツハイマー病もさらに炎症性アルツハイマー病と非炎症性アルツハイマー病の2種類に分類されます。 炎症性アルツハイマー病ではC反応性タンパク質などの炎症マーカーが増加します。 非炎症性アルツハイマー病では炎症マーカーは増加せず、インスリン抵抗性や高ホモシステイン血症などの代謝異常が見られます。

    アルツハイマー病の原因としては、アミロイドβというタンパク質で出来ている脳のプラークなどが疑われていますが、明確にはわかっていません

    アルツハイマー病は通例、7~10年かけてゆっくりと進行していきます。 その間に、認知機能がゆっくりと衰えていき、最終的には記憶力・言語能力・判断能力・空間把握能力などが正常に機能しなくなります。
  • 原発性加齢性タウオパシー(PART)

    2014年11月のニュースによると、これまでアルツハイマー病とみなされていた神経性疾患が、これからは原発性加齢性タウオパシー(primary age-related tauopathy、"PART")と呼ばれるアルツハイマー病とは別個の独立した疾患として扱われるようになります。

    PART 患者の脳にはアルツハイマー病患者と同様にτタンパク質の異常が生じますが、アミロイドたんぱく質のプラークが脳に蓄積しないという点がアルツハイマー病と異なります。 さらに、τタンパク質に異常が生じる範囲が、PART 患者はアルツハイマー病患者よりも限定的です。
  • レビー小体型認知症

    認知症全体の10~22%程度がレビー小体型認知症に分類されます(アルツハイマー病に次いで2番目に多い認知症)。 レビー小体型認知症では、レビー小体というタンパク質でできた異常な構造物が脳に生じます。 このレビー小体は、アルツハイマー病やパーキンソン病の患者の脳からも見つかっています。

    レビー小体型認知症の症状は、アルツハイマー病に見られるのと同様の記憶障害・混乱・注意力低下・朦朧・抑鬱やパーキンソン病に見られるのと同様の震え・硬直・鈍い動きです。 体を調節する機能が衰えるため、眩暈・転倒・失禁も起こりやすくなります。 布団の中で夢の中でするのと同じ動作をしたり、幻覚(人・動物・何かの色や形など)が見えることもあります。

    レビー小体型認知症の原因はわかっていません。 レビー小体型認知症のリスク要因は、加齢・男性であること・レビー小体型認知症の家族歴です。

    レビー小体型認知症を治す方法は現時点では存在しませんが、コリンエステラーゼ阻害薬で症状が改善することがあります。

    レビー小体型認知症への対応は世界で日本が最も進んでいます。
  • 血管性認知症

    血管性認知症は、脳への血流が減少あるいは阻止されて脳が損傷を受けるのが原因です。 脳への血流の減少や阻止は、脳卒中や、心内膜炎(心臓弁の感染症)、その他の血管疾患が原因となります。

    血管性認知症は、高血圧のある人や、脳卒中あるいは心臓発作が起こった人で発症することが多く、血管性認知症の症状は突如として表れるのが普通です。

    血管性認知症は原因や症状によって何種類かに分けられています。 アルツハイマー病や他の認知症を併発することもあります。
  • 前頭側頭型認知症

    症例数が比較的少ないタイプの認知症で、アルツハイマー病よりも発症年齢が若く、40~65歳の人が発症します。

    このタイプの認知症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞が分解されます。 神経細胞が分解される原因は不明ですが、遺伝子変異が関与しているケースが一部にあります。 前頭葉や側頭葉は、人格や、行動、言語に関わっているので、前頭側頭型認知症の症状として、異様な振る舞いや、言語障害、思考・集中困難、動作の異常などが生じます。

特定の疾患を原因とする認知症

  • 脳の外傷

    ボクサーや、アメフトの選手、兵士などのように頭部に繰り返し外傷を受けるのが原因で発症します。

    損傷した脳の領域によって症状が異なりますが、認知症の兆候が出たり、動作や発話に異常が見られる、パーキンソン病と同じような震えや硬直が起こるなどの症状が出たりします。 頭部に外傷を受けたのち何年も経ってから症状が出ることもあります。

    頭部への外傷を一度受けただけで同じような症状が出ることもあり、これを外傷後認知症(post-traumatic dementia)と言います。 外傷後認知症では、長期記憶(一時的ではない記憶)が損なわれることがあります。
  • HIV に起因する認知症
    HIV によって AIDS を発症すると、脳の組織が破壊されるため、記憶障害や、社会活動からの逃避、集中困難、動作の異常などが起こることがあります。
  • 二次性認知症
    動作障害などの疾患などによっても認知症を発症することがあります。 例えば、パーキンソン病患者では、最終的に認知症を発症するケースが少なくありません。
  • その他の疾患
    ハンチントン病やクロイツフェルト・ヤコブ病も認知症の原因です。 ハンチントン病は遺伝性の疾患ですが、クロイツフェルト・ヤコブ病の原因ははっきりしていません。 ハンチントン病は30~40代で発症することが多く、人格の変化(怒りっぽくなる、不安を感じるなど)や、思考能力の大幅な低下、歩行困難などの症状が起こります。 クロイツフェルト・ヤコブ病は、60歳頃に発症することが多く、動作や、記憶力、思考力、視力が悪化してゆき、ついには喋ることすら困難になったり、盲目になったりするという恐ろしい病気ですが、希少な病気です。

認知症の原因を取り除けるケース

認知症あるいは認知症的な症状は、感染症や水分不足などのように解決できる原因によって生じていることもあります。

このように解決可能な原因としては、髄膜炎・脳炎・ライム病・梅毒などの感染症や、低血糖、脱水状態、酸素欠乏(喘息や心臓発作、一酸化炭素中毒による)、ミネラルの過剰・不足、ビタミンB群の欠乏、薬の副作用、重金属中毒、アルコールや薬物への依存症、脳腫瘍などがあります。

正常圧水頭症(NPH)という脳に水が溜まる病気が認知症の原因である場合にも、シャント手術によって脳に溜まった水を排出することで認知症が治ることが少なくありません。 参考記事: 認知症の原因が NPH であれば手術で治る

認知症の症状

認知症の症状は、認知症の原因によっても異なりますが、概ね次のようなものです:
  • 人の顔や名前を覚えられない
  • 性格や嗜好が変わる
  • 意思の疎通ができない
  • 難しい作業ができない
  • 計画や準備ができない
  • 運動能力が低下する
  • 方向感覚が衰え、道に迷ったりする
  • 論理的な思考ができなくなる
  • 場をわきまえない行動を取る
  • 病的に疑り深くなる
  • イライラする
  • 妄想癖が生じる

上記の他に、睡眠障害や鬱症状も認知症の兆候である可能性があります。

アルツハイマー病や一部の認知症は、時間の経過とともに悪化します。 早期に診察を受けることで、将来のことを考える時間的余裕もできるので、自分や家族に上記の兆候が見られたら、医師に相談しましょう。

認知症のリスク要因

認知症のリスク要因は、自分ではどうにもならない年齢などの要因と、生活習慣のように自分でどうにかできるものの2種類に分類できます。

自分ではどうにもならない要因

  • 年齢
    特に65歳以降は年を取るほどに、アルツハイマー病や血管性認知症などの認知症になるリスクが増加します。 ただし、老化によって認知症になるのが自然だというわけではありません。
  • 家族歴
    認知症の家族歴がある人では、遺伝子変異を原因とするタイプの認知症の発症リスクが著しく増加します。 遺伝子変異をチェックする試験もありますが、100%正しく判定できるわけではありません。
  • 血液型
    "Neurology" 誌(2014年)に掲載されたバーモント大学の研究で、AB型の人は認知症の前段階である認知障害になるリスクが高いという結果になっています。
  • ダウン症
    ダウン症の患者の多くは、中年になるまでにアルツハイマー病に関与するプラークなどが脳内に形成され、認知症を発症します。
  • 頭部の怪我
    頭部に外傷を負った人が認知症を発症しやすいことが知られています。 また、外傷性脳損傷の経験者の脳にアルツハイマー病のプラークが見られることが明らかになっています。

自分でどうにかできる要因

  • 飲酒
    大量に飲酒する人では、認知症のリスクが増加します。 適量の飲酒であれば逆に認知症の予防になるという研究も複数ありますが、大量の飲酒は良くありません。
  • アテローム性動脈硬化
    動脈の壁に脂肪などのプラークが蓄積し、脳への血流が減少すると、血管性認知症のリスクが増加します。 血管の状態とアルツハイマー病との関連を指摘する研究もあります。
  • 心臓・血管
    LDL(悪玉)コレステロールの血中値が高いと、血管性認知症のリスクが増加します。 また、複数の研究で、高血圧あるいは低血圧により認知症のリスクが増加することが示されています。
  • 糖尿病
    糖尿病によっても、アルツハイマー病と血管性認知症のリスクが増加します。 さらに、糖尿病ではなくても、血糖値が正常範囲よりも高いだけでも、認知症のリスク増加が始まるという研究もあります。
  • 肥満
    中年の頃に肥満であると、年を取ってから認知症になるリスクが増加します。
  • エストロゲン過多
    閉経後にエストロゲンやプロゲステロンを何年も服用している女性では、認知症になるリスクが増加します。 最近の研究によると、更年期症状の1つとして記憶障害が起こります。
  • ホモシステイン
    ホモシステインの1種の血中量が多いと、血管性認知症のリスクが増加するという結果になった研究がありますが、そうでないという結果になった研究もあります。 アルツハイマー病のリスク要因であるとも考えられています。
    ホモシステインはアミノ酸の一種で体内で生産されますが、良い作用をもたらす物質ではないようで、体内に大量に存在すると心臓病や、脳卒中、骨粗鬆症のリスクが増加すると考えられています。 ホモシステインを分解するには、葉酸と、ビタミンB6、ビタミンB12 が必要となります。
  • 喫煙
    喫煙によっても認知症の発症リスクが増加する可能性が指摘されています。 受動喫煙でも認知症になるリスクが増加する恐れがあります。
  • 歯周病
    歯周病菌が脳に入ったり歯周病などで歯を失ったりすることによって認知症になるリスクが増加するという研究や、歯磨きで認知症のリスクが減少するという研究があります。
  • 睡眠不足
    特にアルツハイマー病に関して、睡眠不足や睡眠障害がリスク要因となることを示す研究が複数発表されています。 睡眠によって脳に蓄積するアミロイドβが減少するという研究や、変わったところでは、眠るときの姿勢がアルツハイマー病などのリスクに影響するという研究もあります。
  • その他
    他にも、腎機能の衰え・貧血・聴力の衰え・ストレス・心的態度(他人を利己的だと考える)・向精神薬・抗欝剤などが認知症のリスク要因である可能性があります。 鬱病自体が認知症のリスク要因ですが、それとは別途に抗欝剤も認知症のリスク要因です。