鬱病の原因はセロトニン不足ではなかった

(2013年3月) " Nature Neuroscience" 誌に掲載されたメリーランド大学の研究によると、鬱病の原因は、脳細胞間の連絡が妨げられるからである可能性があります。 鬱病患者では、従来考えられていたようにセロトニンなどの脳内のホルモン様物質の量ではなくて、脳細胞間の興奮性の信号の伝達に異常があるのではないかというのです。

背景情報

一般的な抗鬱剤であるプロザック、ゾロフト、セレクサなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)では、脳細胞がセロトニンを吸収するのを妨げることで脳内のセロトニン量を増加させますが、SRRI は鬱病患者の半数ほどでしか有効でありません。

それでも、脳内のセロトニン量を増すことで鬱病が治る患者もいることから、これまで50年以上にもわたって鬱病の原因はセロトニン量の不足にあると考えられてきました。 今回の発見は、このような考えを覆す画期的なものかもしれません。

今回の研究

今回の研究によると、セロトニンには、これまで知られていなかった脳細胞間の連絡を強化する作用があります。

研究者は次のように述べています:
「セロトニンは、感情・認知機能にとって重要な脳の領域における興奮性の相互作用を増幅します。 この増幅がどうやら、神経細胞間で行われる大切な連絡がきちんと届くのに必要であるようなのです。 そこで、プロザックなどのSRRIが有効なのはこのためなのだろうか、と私たちは考えました」

こういうわけで研究グループが行ったマウス実験では、ヒトが鬱病になるのと同じようなストレスを受けたマウスでも、①脳内のセロトニンの量は減っていないことと、②興奮性結合(excitatory connections)のセロトニンに対する応答が(普通のマウスと)全く違っていることが明らかになりました。

さらに、この興奮性結合の異常を抗鬱剤で治すこともできました。 つまり、従来の抗鬱剤が効いていたのは、脳内のセロトニンの量が増えたからではなく抗鬱剤によって興奮性結合の異常が治ったからということでしょうか。

解説

脳細胞間の連絡が強化された状態を維持することは、記憶と学習においても主要なプロセスだと考えられています。 そのため、鬱病では興奮性の脳細胞の機能に異常があるという今回の発見は、鬱病患者に集中力・記憶力・判断力の低下が見られることとも合致します。

今回の発見は、脳内のセロトニン量を増やすよりも興奮性結合を強化することをターゲットにした薬が有効であることを示唆しています。