食物繊維不足により先祖伝来の腸内細菌が絶滅の危機に

(2016年1月) "Nature" 誌に掲載されたスタンフォード大学の研究によると、食物繊維の不足による腸内細菌の多様性の低下は子々孫々にまで残るかもしれません。

研究の背景
現代的な生活により腸内細菌の多様性が損なわれる理由として抗生物質の使用・帝王切開・人工乳の使用などが考えられていますが、腸内細菌の主食が食物繊維であることから、研究チームは食物繊維の摂取量の差が腸内細菌の多様性の差につながっているのではないかと考えました。
一世代目の実験
食物繊維の有無による違い

ヒトから採取した腸内細菌を移植した無菌マウス(腸内細菌が存在しない)を2つのグループに分けて、一方のグループには植物性の食物繊維を豊富に含むエサを与え、もう一方のグループには食物繊維をほぼ含まないエサを与えました。 この2種類の餌は、タンパク質・脂肪・カロリーにおいては同等でした。

そしてマウスの糞便サンプルに含まれる細菌(腸内細菌の指標)の分析を続けたところ、当初は2つのグループ間で違いが見られなかったのですが、数週間が経過した時点で、食物繊維をほぼ含まないエサを与えられていたグループの腸内細菌の種類が大幅に減りました。 半数超の種類の腸内細菌において細菌の数が75%超も減少したのです。 腸内から完全に消滅してしまった種類の腸内細菌も少なくありませんでした。

絶滅した腸内細菌は戻らない

試験開始から7週間目の時点で、食物繊維をほぼ含まないエサを与えていたグループに食物繊維を豊富に含むエサを与えるようにすると、4週間で腸内細菌の多様性が部分的に回復しましたが、当初に存在していた腸内細菌の種類のうち1/3は完全には復活しませんでした。 食物繊維を多く含むエサにより復活した種類の腸内細菌は、低食物繊維のエサにより腸内から絶滅しかけていたけれども僅かに生き残っていたのだと思われます。

子孫への影響
腸内細菌の多様性は減る一方
低食物繊維のエサを数世代にわたって続けてみたところ、世代を経るごとに腸内細菌の多様性が衰えてゆき、4世代目の時点では最初の世代のマウスの腸内に存在していた細菌のうち3/4の種類が検出できなくなりました(*)。 実験環境においてマウスは両親の保有する腸内細菌にしか触れることができないために腸内細菌の種類が減る一方なのだと考えられます(†)

(*) 絶滅してしまったわけではないのかもしれないが存在が確認できないニホンオオカミやニホンカワウソ、ドードー、トキのような存在。

(†) 家族などのコミュニティーのレベルで絶滅してしまった腸内細菌は、コミュニティー内での接触によっては回復できないし食物繊維を食べても蘇らない。
多様性はやはり戻らない
低食物繊維のエサにより腸内細菌の多様性が低下したマウスに食物繊維を多く含むエサを与えるようにしても、最初の世代に存在した腸内細菌の種類のうち2/3超は復活しませんでした。 これらの種類の腸内細菌は、食物繊維が存在しない環境が数世代続いたために完全に絶滅してしまったのだと思われます。
4世代目で存在を確認できなくなった腸内細菌の種類が3/4(75%)で、食物繊維を与えるようにしてもなお存在を確認できなかったのが2/3超(66%超)ということなので、9%ほどの種類の腸内細菌が絶滅寸前のところで耐えていたということになります。
糞便移植なら

低食物繊維のエサにより腸内細菌の多様性が失われたマウスも、高食物繊維のグループの糞便を用いて糞便移植をして高食物繊維のエサに切り替えると腸内細菌の多様性が完全に回復しました。

ヒトに当てはめると
先進国における食物繊維摂取量の低下(*)が始まったのは、20世紀半ば以来のことでしかありません。 したがって今後の数世代において腸内細菌の多様性がさらに低下し、健康に悪影響が生じる恐れがあります。
(*) 狩猟採集・農耕などの前近代的な生活を送る集団の食物繊維摂取量が150g/日ほどなのに対して、現代的な生活を送る集団では15g/日程度。
研究者によると腸内細菌の多様性を維持するには食物繊維を多く食べるだけでなく、過度に清潔にし過ぎないことが推奨されます。 例えば、庭仕事で土を触ったりペットに触れた後にも手を洗わないなどです。 抗菌剤が使われている薬用石鹸などの使用も控えましょう。