(2019年4月) "International Journal of Molecular Sciences" に掲載されたトゥルク大学(フィンランド)の研究で、食生活の質が高い人は腸内細菌が多様であるという結果になりました。
腸内細菌の多様性について
腸内に住む細菌が多様であるのは大体において健康にとって有益であると考えられています。 低度の慢性炎症・インスリン抵抗性・脂質異常といった不健康な状態を抱える人は腸内細菌の多様性が低いというデータがあります。
多様な腸内細菌が健康に有益である理由として研究グループは次の2点を挙げています:- 抗炎症性の短鎖脂肪酸(SCFA)などの代謝物が多く作られる。
- リポ多糖などの炎症仲介物質が作られにくくなる。
研究の方法
妊娠18週目未満で肥満のために代謝性合併症のリスクが高い女性84人を対象に、食生活に関するアンケート調査を行ったり腸内細菌の種類構成を調べたりしました。
食生活を調べるアンケートはIDQ(index of diet quality)と呼ばれるもので、このアンケートでは過去1週間にどんな食品(*)をどんな頻度でどれだけ食べたかを尋ねます。- 全粒穀物を食べている(食物繊維にして25g/日以上、全粒パン100g/日超)。
- 野菜・果物を毎日400g/日以上食べる。
- 乳製品を500g/日超食べる。
- 摂取カロリーに占める割合が、飽和脂肪酸10%未満・一価不飽和脂肪酸10~15%・多価不飽和脂肪酸5~10%である。
- 糖類の摂取量が少ない(摂取カロリーにショ糖が占める割合が10%未満)
結果
IDQスコアが最高のグループは最低のグループに比べて、腸内細菌の多様性が高くなっていました。 腸内細菌の多様性への影響が強かった食品は全粒穀物と野菜でした。
IDQスコアが高い人の腸内には、① Coprococcus属の細菌、② Faecalibacterium prausnitzii という種類の細菌、および ③ Barnciellaceae 科に属する未知の種類の細菌が多く生息していました。
IDQスコアが低い人の腸内からは、Sutterella属に属する未知の種類の細菌が多く見つかりました。
今回の腸内細菌
Coprococcus菌と Faecalibacterium菌はどちらも Clostridiales目に属する細菌で、SCFAの一種である酪酸塩を生産する細菌です。 SCFAは抗炎症作用を有する細菌代謝物であると考えられています。 SCFAは宿主(ヒトなど)のエネルギー代謝にも関与します。 高品質な食生活が健康に有益な理由の少なくとも一端は、こうしたSCFAを生産する細菌で説明が付くと言ってよいかもしれません。
Barnciellaceae 菌と Sutterella菌に関しては、人体への影響がよくわかっていません。 Barnciellaceae 菌は Bacteroidales目に属する細菌です。 Bacteroidales目の細菌は腸内に大量に生息しています。 Sutterella菌は Burkholderiales目に属する細菌です。 Burkholderiales目も腸内に多い細菌ですが、Sutterella菌は 炎症促進性を有するのではないかと考えられています。
いずれにせよ、食生活と腸内細菌と健康の関係についてはまだまだ研究が必要です。