善行により得る幸福感で免疫力が向上し、炎症が抑制される

(2013年7月)"Proceedings of the National Academy of Sciences" 誌に掲載された UCLA などの研究によると、幸福感が遺伝子の発現に良い影響を与えます。

例えばマザーテレサのように、人生に深い意義を見出した人が感じる深い幸福・満足感(eudaimonia)を得ることによって、免疫細胞において大変有益な遺伝子発現が生じるというのです。

すなわち、このような人においては、炎症関連の遺伝子の発現量が少ない一方で、抗ウイルスおよび抗体関連の遺伝子の発現量が多かったのです。 遺伝子の発現とは、遺伝子の設計図に基づいて体内でタンパク質が作られることを言います。

他方、例えば大部分のセレブのように快楽的な喜び(hedonism、金銭のみで得られるような安易な喜び)に生きる人では、マザーテレサ・タイプの人とは正反対に、炎症関連の遺伝子の発現量が多く、抗ウイルスおよび抗体関連の遺伝子の発現量が少なかったのです。

研究の概要

この研究では、80人の健康な人たちから血液サンプルを採取した後に、これらの人たちの幸福感に関する傾向(マザーテレサ・タイプかセレブ・タイプか)などを判定しました。 そして、CTRA(後述)遺伝子発現プロファイルを用いて、幸福感に関する傾向によって生物学的な影響が異なるかどうかを調べました。

本人自身が感じている幸福感や満足感は、マザーテレサ・タイプでも、セレブ・タイプでも違いはなかったにもかかわらず、本人のゲノム(1組の染色体)の反応は非常に違っていました。
つまり、物質的で安易な幸福感であっても、高尚な幸福感や幸福感であっても、本人が感じる幸福感は質量ともに同程度であり優劣は存在しない(違いを自覚できない)けれど、本人のゲノムにとっては、安易な幸福感よりも高尚な幸福感のほうが有益だというわけですね。
研究者は次のように述べています:
「ヒトは、善行によっても、快楽によっても気分が良くなりますが、ヒトのゲノムにとっては、両者は全くの別物なのです。 明らかに、ヒトのゲノムは、ヒトの意識よりも遥かに、幸福を得る手段の違いに敏感です」

CTRA について

過去の研究で、ストレスや、脅威、不確実性などが続く状況では免疫細胞において遺伝子の発現が変化することがわかっています。 これを CTRA(conserved transcriptional response to adversity)といいます。 CTRA では、炎症に関与する遺伝子の発現量が増加し、抗ウイルスに関与する遺伝子の発現量が低下します。

研究者によると、CTRA は、ヒトの進化の過程においては、感染リスクの変化(傷口からの細菌感染や、他者との接触によるウイルス感染など)に対応するためのものであったと考えられますが、現代社会においては、社会的あるいは形式的な脅威による(CTRA の)慢性的な活性化は、炎症や、心血管疾患、神経変性疾患(例えばアルツハイマー病)などの疾患を促進し、ウイルスに対する抵抗力を損なうだけのものでしかありません。

高尚な幸福感というのは、マザーテレサのような善行によって得られるものだけなのでしょうか? 長い研鑽の後に何かの技術レベルが上がったことを認識できたとか、スポーツ競技で望んでいた目標を達成するとか、満足のいく仕事ができたなどというのも深い満足感につながると思いますが。

子供やペットへの愛情に由来する幸福感も高尚な幸福感と同種のものではないかと思いますが、性愛に由来する幸福感は安易な幸福感のほうに分類されそうな感じですね。

RPG で自分のキャラクターを育てて強くするというのも、安易な幸福感になるのでしょうか? そもそも、自分自身であっても自分の化身であっても、他者よりも強くなることによる喜びというのは、高尚な幸福感ではないのかもしれません。

何かを手に入れることによる幸福感が安易な幸福感で、何かを与えることによる幸福感が高尚な幸福感という区分はどうでしょうか? どこかの教祖が言いそうなセリフですが。

マンガや小説、映画などの物語によって擬似的に体験する安易な幸福感あるいは高尚な幸福感というのも、自分の肉体に対する影響がありそうですね。 例えば、「大聖堂」という小説に出てくる修道僧の話を読んで高尚な幸福感を感じれば、それによってゲノムに良い影響があるかもしれません。