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運動をしても記憶力が改善されない体質の人も

(2015年12月) "European Review of Aging and Physical Activity" 誌に掲載された Universite de Poitiers(フランス)の研究によると、運動が高齢者の記憶力改善に及ぼす効果にはBDNFという脳内物質の遺伝子のタイプに基づく個人差があります。
Effects of BDNF polymorphism and physical activity on episodic memory in the elderly: a cross sectional study. Anne CanivetEmail author, Cedric T. Albinet, Nathalie Andre, Jean Pylouster, Montserrat Rodriguez-Ballesteros, Alain Kitzis and Michel Audiffren. DOI: 10.1186/s11556-015-0159-2 (Licensed under CC BY 4.0)
BDNF

BDNF(脳由来神経栄養因子)はエピソード記憶(*)に関与するタンパク質で、脳の中でも海馬に最も多量に存在しています。 運動中に放出されたBDNFは、脳の可塑性を向上させることによって脳の健康に寄与すると考えられています参考記事。 BDNFなどの神経栄養因子の分泌には遺伝子が関与しています。

(*) 個人的な経験に関する記憶力。 加齢により衰える。
BDNF遺伝子の種類
BDNF遺伝子は、その構造の違いにより Val66Met(Val/Met)、Val66Val(Val/Val)、Met66Met(Met/Met)という3つのタイプに分類されます。 Val/Val が基本的なタイプですが、どのタイプが一般的であるかは人種により異なります(*)
(*) "Ethnic Differences in Brain-derived Neurotrophic Factor..." によると、韓国人では Met/Met が23.4%・Met/Val が45.9%・Val/Val が30.7%ですが、クロアチア人では Met/Met が3.4%・Met/Val が32.4%・Val/Val が64.2%です。

これまでの研究により、Val/Met型のBDNF遺伝子を持つ人は脳におけるBDNFの分泌・流通量が少なく、それが海馬のサイズやエピソード記憶力にマイナスの作用をもたらすことが示されています。

研究の方法

この研究では、運動習慣がエピソード記憶力にもたらす効果とBDNF遺伝子のタイプとの関係を調べました。

認知障害が見られる55歳以上(平均年齢72.7才)の中高年者205人を対象にエピソード記憶力のテストを実施し、運動量とBDNF遺伝子のタイプに応じて205人を次の4つのグループに分けてテストの成績を比較しました:
  1. BDNF遺伝子のタイプが Val/Val であり、運動習慣があるグループ
  2. BDNF遺伝子のタイプが Val/Val であり、運動習慣が無いグループ
  3. BDNF遺伝子のタイプが Val/Met または Met/Met であり、運動習慣があるグループ
  4. BDNF遺伝子のタイプが Val/Met または Met/Met であり、運動習慣が無いグループ

エピソード記憶力のテストでは、被験者に話を2回読んでもらった後、話の内容に関する質問を行いました。

結果
グループ1とグループ2のの比較では1のグループのエピソード記憶力が統計学的に有意に優れていましたが、グループ3とグループ4の比較では統計学的に有意な差は見られませんでした。
BDNF遺伝子のタイプとエピソード記憶力の関係を示すグラフ
結論

運動によりエピソード記憶力が向上するのは特定のタイプ(Met が入らないタイプ)のBDNF遺伝子を持つ人に限られると考えられます。

類似研究
"Neurology" 誌に 2014年に掲載された研究では、Val/Val型のBDNF遺伝子を持つグループでは運動習慣があると海馬と側頭葉のサイズが大きいけれども、Val/Met型または Met/Met型のグループでは運動習慣があると海馬と側頭葉のサイズがむしろ小さいという結果になっています。