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運動をするとBDNFが増える。 でも... 男性だけ?

(2017年5月) サニーブルック研究所(カナダ)などの研究チームが行い "European Journal of Neuroscience" に掲載されたメタ分析によると、運動に脳由来神経栄養因子(BDNF)を増やす効果が期待できます。

BDNFとは

BDNFは脳の中でも海馬(記憶や思考に深く関与する領域)に大量に存在するタンパク質で、ニューロンの形成や生存を促進する作用があります。

運動により認知機能(記憶力や思考能力)や気分(鬱や不安)が改善するのは運動でBDNFが増加するためではないかと考えられています。 BDNFは加齢により減少することから、認知機能の衰えにも関与している可能性があります。

メタ分析の方法

運動の前後に腕から血液を採取してBDNFの血中濃度を比較した55の研究のデータを分析しました。

結果

運動後のほうがBDNFの血中濃度が標準化平均差(平均の差を標準偏差で割った数字)0.59高くなっていました。 運動時間が長いほどBDNFの増加量が多くなっていました。

男女別に分析すると、運動によりBDNFが増加していたのは男性のみで、女性では運動をしてもBDNFは増えていませんでした。

関連研究

  • "Cell Metabolism" 誌(2013年)に掲載された研究によると、BDNFの生産にはイリシンと呼ばれ運動で増加することが知られるホルモンが関わっているようです。 マウスに有酸素運動をさせたところ、マウスの脳内でイリシンの量が増加して海馬におけるBDNF遺伝子の発現量(*)が増加したのです。 一方、遺伝子改造によりイリシンを減らしたマウスではBDNF遺伝子の発現量が低下しました。
    (*) 「遺伝子の発現」とは、遺伝子の設計図に基づいて体内で特定のタンパク質(この話ではBDNF)が作られること。

  • "European Review of Aging and Physical Activity" 誌(2015年)に掲載された研究では55歳以上の中高年者205人を調査して、BDNFを作る遺伝子のタイプによっては運動習慣があっても無くても記憶力(*)に差がないという結果になっています。

    BDNF遺伝子のタイプが Val/Val という一般的なものである人の場合には運動習慣があるほうが記憶力が優れていたのですが、BDNF遺伝子のタイプが Val/Met あるいは Met/Met という変異型の人(†)の場合には運動習慣の有無による記憶力の差が見られなかったのです。

    (*) エピソード記憶力。 エピソード記憶とは個人的な経験に関する記憶力のこと。 過去の出来事を思い起こして再体験するというタイプの記憶力。

    (†) こういう人は脳におけるBDNFの分泌・流通量が少ないことが知られています。
  • "Neurology" 誌(2014年)に掲載された研究では、Val/Val 型のBDNF遺伝子を持つグループでは運動習慣があると海馬と側頭葉のサイズが大きいけれども、Val/Met型または Met/Met型のグループでは運動習慣があると海馬と側頭葉のサイズがむしろ小さいという結果になっています。
  • "Muscle & Nerve" 誌(2017年)に掲載された研究では、筋肉にダメージが生じるような運動(*)をした後は少なくとも24時間にわたりBDNF血中濃度が低下するという結果になっています。
    (*) ドロップジャンプを200回。 ドロップジャンプとは、踏み台から飛び降りてするにジャンプするという運動。
  • "Nutrition Journal"(2015年)に掲載された研究では、αリノレン酸(*)を1.6g/日ほど1周間にわたり摂取し続けることで男女ともにBDNFが増加しました。 ただし、リノレン酸の摂取によりマロンジアルデヒド(MDA)と呼ばれる有害な物質の量も増えていました。
    (*) オメガ3脂肪酸の一種で菜種油や亜麻仁油やクルミなどに含まれている。