(2018年11月) カリフォルニア州立大学ロングビーチ校などの研究グループが運動やカロリー制限の長寿効果についてまとめたレビューを "Aging Cell" 誌に発表しています。
レビューの要旨
- 老化の過程においては、機能不全や損傷が生じた細胞タンパク質や細胞小器官(細胞核やミトコンドリアなど)が蓄積する。 その結果、細胞の恒常性が損なわれ変性が進行し細胞死のリスクが増加する。
- 寿命を増進する上では、このように機能を失った細胞タンパク質や細胞小器官の蓄積を抑制することが大切である可能性が高い。
- 運動により病気にかからずに健康に年を取りやすくなることが知られている。
その分子的なメカニズムの大部分は依然として不明であるが、近年の研究により、運動がプロテオーム(生体や細胞に備わるタンパク質群の一揃い。生体や細胞が有するタンパク質のセット)を調整することが示されている。
同様に、カロリー制限(寿命を延ばす効果のあることが知られている)にも細胞内タンパク質の品質を向上させる効果があると考えられる。 - オートファジーは細胞タンパク質や細胞小器官をリサイクルするためのメカニズムである。 オートファジーは老化に関与している。 オートファジーは老化により鈍化する。
- オートファジーを抑制する存在としてTORC1(*)と呼ばれるキナーゼ(酵素の一種)がある。 TORC1を阻害すると寿命が伸びる。
(*) "target of rapamycin complex 1" の略語。 "target of rapamycin" はTOR(ラパマイシン標的タンパク質)という略称で知られる。
TORC1(target of rapamycin complex 1)のフルネームは「ラパマイシン標的タンパク質複合体1」となる。
「mTOR」というのもあるが、これは「哺乳類(mammalia)のTOR」の略称。 - TORC1を阻害することで、老化の過程において有害な感じで蓄積する細胞タンパク質の生産量が減少する可能性がある。 TORC1はオートファジーに依存するかたちで作用する可能性もある。
- 運動やカロリー制限により、複数の組織においてTORC1の活性が低下する一方でオートファジーが活性化する。 カロリー制限が誘導するTORC1/オートファジー関連のシグナル伝達は、運動が誘導するのと同じものである(運動とカロリー制限に共通のメカニズム)。
- したがって、運動やカロリー制限は細胞内タンパク質の合成とリサイクルのバランスを保ってプロテオームを健全に維持することで長寿効果を発揮すると考えられる。 運動やカロリー制限により寿命が実際に増進される可能性がある。