運動によって不安感の原因物質が増加するのに、運動に抗不安効果のある理由が明らかに

(2013年7月) プリンストン大学の研究によると、運動によって脳が再編されて、ストレスへの耐性が増加し、不安が通常の脳機能に干渉しにくくなります。 マウス実験において、日常的に運動できる状態にあるマウスでは、冷水などのストレスにさらされたときに、脳が示すニューロンの急激な活性によって海馬腹側部(ventral hippocampus)に生じる興奮が遮断されていたのです。 海馬腹側部というのは、不安感を制御すると考えられている脳の領域です。

これまでの各種の研究からは、運動に抗不安効果があるということ、および運動により海馬腹側部における新しいニューロンの成長が促進されるということが明らかになっていました。 しかし、(運動により作られたばかりの)若いニューロンは成熟したニューロンよりも興奮しやすい(すなわち不安感の原因となりやすい)ため、運動によりニューロンの成長が促進されるという研究結果と、運動によって不安感が抑えられるとする研究結果との間に食い違いが生じていました。

この食い違いを、今回の発見(運動によってニューロンの発火を防止するメカニズムも強化される)により説明できるかもしれません。

今回の研究において、日常的に運動しているマウスでは、ストレスに対する新しいニューロンの活性化(つまり不安感)が阻止されましたが、運動をしていないマウスでは、新しいニューロンが阻止されること無く活性化していました。 しかし、運動をしていないマウスに運動をさせるようにしてから6週間後には、古いニューロンと新しいニューロンの両方の活性が消滅しました。

研究の概要

今回の研究では、2つのグループのマウスを用意して、一方のグループは回し車で自由に運動できるようにしておき、もう一方のグループのケージには回し車を設置しませんでした。 マウスは良く走る動物で、回し車で走れるようにしておくと、一晩のうちに4キロも走ります。

そうして両グループを6週間飼育したのち、マウスたちを冷水に漬けてストレスを与えてみました。 そうすると、ストレスが発生した瞬間から、両グループのマウスで違いが見られました。

運動をさせてもらえなかったグループのマウスでのみ、冷水に刺激されて寿命の短い即初期遺伝子が増加したのです。 即初期遺伝子は、ニューロンの発火時にスイッチが入ります。 運動をしていたグループではニューロン中に即初期遺伝子が増加しなかったことから、運動をしていたマウスが冷水というストレス源に対して直ちに興奮状態に陥らなかったことが窺えます。

運動をしていたマウスにおいては、興奮性のニューロンを抑止する抑制性ニューロンの活性が増大するなどストレスに対する反応が制御されていることが、脳に表れたあらゆる兆候から明らかでした。 同時に、運動をしていたマウスではニューロンから放出される神経伝達物質であるガンマアミノ酪酸(GABA)量が増加していました。 GABA には、神経の興奮を抑える作用があります。 また、GABA がシナプスに放出される際の入れ物である小胞の材料となるタンパク質の量も、運動をしていないマウスよりも、運動をしているマウスに多く存在していました。

さらに、GABA 受容体を遮断して海馬腹側部におけるニューロンの活性が沈静化されないようにしたところ、運動による抗不安効果は発揮されませんでした。 GABA 受容体の遮断には、ビククリンを用いました。