左右対称の顔を美しいと感じる理由

(2014年8月) 複数の研究で、人が美しいと感じる顔であるための条件の1つとして「顔が左右対称である」というものがあることが示されています。 そして、その理由として挙げられているのが「良遺伝子説(good genes hypothesis)」というものです。

良遺伝子説
良遺伝子説とは次のようなものです:
「顔の左右対称が損なわれるのは、栄養不良や、感染症、遺伝子変異などが原因で発達中に問題が生じるからである。 したがって、顔が左右対称であるというのは、健康で回復力があることの証であり、環境や遺伝的な問題への対応力を示すものである。 このような性質が子孫にとって有益であるために、ヒトは顔が左右対称の異性をパートナーとして好むのだと思われる」

この説はこれまで進化心理学界の支持を得てきましたが、"Proceedings of the Royal Society B" 誌に掲載されたブリュネル大学(英国)の研究によると、顔が左右対称の人の方が健康だというわけでもありません。

研究の内容

この研究では、顔が左右対称である度合いが異なる 4,732人の英国人(男性2,506人、女性 2,226人)の病歴を調査しました。 調査項目には、感染症にかかる頻度、健康に問題が生じていた期間の長さ、(感染症の?)症状が1年あたりに生じた平均回数などが含まれていました。

調査の結果、顔の左右対称が崩れている度合いと、その人の健康とのあいだに相関関係は一切認められませんでした。 この結果により、良遺伝子説の根幹となる前提が突き崩されました。

この研究では、8才の時点での顔の左右対称性と15才の時点での知能との間に相関関係が存在する可能性が示されました。 しかしこれについても、顔の左右対称性は IQ を決定する要因として僅かに1%を占めるに過ぎませんでした。

進化論以外の理由?

顔が左右対称の人が好まれる理由が進化論的な優位性によるものでないとすれば、何がその理由に当たるのでしょうか?

別の可能性としては、脳が左右対称のパターン(模様)を視覚的に処理しやすいからだという理由が考えられます。 例えば、顔の右側のパターンだけを見たときに、そこから左側のパターンを予測しやすいのだと考えられます。 顔が完全な左右対称であるほど、この予測機能が効果的に働くので脳への負担が少ないというわけです。

この考えを裏付けるかのように、ヒトに限らずミツバチなどの動物も、左右対称のモノ(魚や蝶の模様など)を好むことが最近の研究で明らかになりつつあります。

アブストラクトでは

ただし、プレスリリースの元になった論文のアブストラクト(概要)を見ると少し話が違うようです。

まず、左右対称の顔が好まれる従来の説明としては、単に「顔の左右対称が健康の証だから」としています。

そして、今回の研究に基づいて顔の左右対称性と当人の健康との関係を否定したうえで、次のように述べています:
「左右対称の顔をした人が好まれるのに進化論的な理由があるとすれば、それは健康上のメリットがあるからではなく、相当な発育障害(developmental disturbance)や有意な異常(pathology)を回避するように進化したからではないか」
アブストラクトでは、良遺伝子説の全てを否定しているわけでは無いようです。