糖尿病のリスクに関与する未知の脂肪酸 "FAHFA"

(2014年10月) "Cell" 誌に掲載された Salk Institute(米国)などの研究により、2型糖尿病に関与する新種の脂質が発見されました。

この脂質は、FAHFA(fatty acid hydroxy fatty acid)と呼ばれる脂肪酸で、マウス実験で血糖値を下げる効果が確認されたほか、初期の糖尿病のヒトで FAHFA の量が低下していることも明らかになりました。

研究者の話では、FAHFA には抗炎症作用もあるため、糖尿病だけでなくクローン病やリウマチ関節炎の治療にも利用できる可能性があります。

これまで FAHFA の存在が知られていなかったのは、FAHFA が細胞・組織中に微量しか存在せず、検出が困難だったためです。 今回の研究では最新の質量分析技術を用いて、研究グループが遺伝子改造により作り出した糖尿病耐性を有するマウスの脂肪を検査しました。

研究者は次のように述べています:

「このマウスでは、脂肪中に存在する Glut4 と呼ばれる糖輸送体の量を遺伝子改造により増やし(それによって糖尿病耐性を獲得させ)ました。 Glut4 が少ない人が糖尿病になりやすいことが以前の私たちの研究で明らかになっていたからです」


研究グループは、Glut4 が糖尿病を抑制する仕組みを調べていて、インスリンの活性が良好な(したがって糖尿病になりにくい)マウスでは脂肪酸の合成量が多いことに気付きました。 そして、その脂肪酸の種類を調べていて FAHFA の存在に気付きました。

「通常のマウスと糖尿病耐性のある改造マウスとで異なっていたのは FAHFA の量だけでした。 改造マウスでは、FAHFA の量が16倍に増加していたのです」

「そこで私たちは、質量分析と化学合成を組み合わせて FAHFA の構造を解明しました。 FAHFA はまったく新種の分子でした」


そして、(遺伝子改造をしていなくて2型糖尿病を発症している)マウスにFAHFA を食べさせてみたところ、血糖値が下がり、インスリン量が増加しました。 これは FAHFA に(糖尿病を)治療する効果があるかもしれないということです。

さらに、FAHFA に関してヒトについても同じことが言えるかどうかを調べるために、インスリン抵抗性(糖尿病の兆候)が生じている人の FAHFA 体内量を調べてみたところ、脂肪および血液に存在する FAHFA の量が低下していました。 このことから、FAHFA の量の違いが糖尿病のリスクに影響している可能性が考えられます。

「マウスでも人でも、FAHFA の体内量が多いほど良いと思われます。 FAHFA は複数のメカニズムを介して作用します。 食後などに血糖値が上昇しているときには、FAHFA は速やかに膵臓にインスリンの分泌を促すホルモンの分泌を促進しますし、それ以外にも、細胞内への糖の取り込みを直接的に促進したり、脂肪および体全体における炎症応答を軽減したりします」


このように複数の作用があるために、FAHFA には尋常ではない治療効果が期待できます。 FAHFA は、様々な野菜や果物などの食品に含まれているだけでなく、ヒトの体内でも生産/分解が行われています。 したがって、FAHFA の生産/分解をターゲットする新しい治療薬が開発される可能性もあります。

FAHFA は GPR120 と呼ばれる受容体と結合し、脂肪細胞にどれだけのブドウ糖が吸収するかを制御します。 研究グループは、FAHFA の体内量を増やすことによって GPR120 を活性化させるのも、糖尿病の予防や治療に有効ではないかと考えています。

「糖尿病を発症する前から FAHFA の血中量は低下しますから、FAHFA を糖尿病リスクの初期のマーカーとして用いることも出来そうです」