炎症とは
炎症は病原体や有害物質に対して免疫系が引き起こす自然免疫反応の一部です。 炎症反応では免疫系が、患部に運ばれる栄養を増やす・死滅した細胞を除去して傷の治癒を早める・反応性分子(過酸化水素・一酸化窒素・次亜塩素酸)を作り出して病原菌を抑制するなどを行います。
しかし、反応性分子は患部周辺の健全な組織まで傷つけてしまいます。 過酸化水素や次亜塩素酸が漂白剤や消毒剤の主成分であることから反応性分子が人体にとっても有害であることがおわかりでしょう。
問題なのは慢性的な炎症
炎症に副作用があるとはいえ、感染症や怪我などで必要とされる状況でのみ炎症が生じるのは体の健康に取って自然で必要なことです。 問題となるのは、炎症が不要な状況なのに数ヶ月あるいは数年間にわたって継続する慢性的な炎症です。
慢性的な炎症はガン(*)・糖尿病・心臓疾患・リウマチ・抑鬱・アルツハイマー病など様々な病気に関与していると考えられています。 炎症を促進するような食生活を送っている人は早死にしやすいという研究もあります。慢性炎症の原因となるのは、体内から排除されずに残っている病原体・有害物質・免疫系の異常・運動不足・肥満・遺伝的体質・加齢などですが、食事内容も慢性炎症に大きく影響します。
慢性炎症を抑える食べ物
アラバマ大学バーミンガム校の研究者であるローレン博士によると、次の食べ物に慢性的な炎症を抑える効果があります:- 柑橘系の果物: 抗酸化物質であるビタミンCとビタミンEが豊富に含まれています。
- 緑色の葉野菜: ビタミンKを豊富に含んでいます。 ビタミンKはワカメや、緑茶、紅茶にも豊富に含まれています。
- トマト: トマトに含まれるリコピンも強力な抗酸化物質です。 トマトが赤いのはリコピンのためです。
- サーモン(天然物): オメガ3脂肪酸を豊富に含んでいます。
抗酸化物質とオメガ3脂肪酸
つまりローレン博士によると、抗酸化物質とオメガ3脂肪酸に抗炎症作用があるというわけです。
抗酸化物質
抗酸化物質として有名なのはビタミンCとビタミンEですが、抗酸化作用という点から言えば、カテキンやアントシアニンなどのフラボノイド(緑茶・ブドウ・赤ワイン・リンゴ・ココアなどに含まれる)や、フィチン酸も炎症を抑えるのに有効かもしれません。 色の濃いブドウや赤ワインの成分であるレスベラトロールにも抗酸化・抗炎症作用があると考えられています。
ミシガン大学が 2013年に発表した研究でも、赤色・黒色・緑色のブドウを冷凍して粉末状にしたものを混ぜたエサを三ヶ月間食べたネズミで体内の抗酸化物質が増加し、炎症が減る(そして肝臓・腎臓・腹部の脂肪も減る)という結果になっています。
オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸とは、魚に含まれる油として有名なDHAやEPAなどのことです。 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は炎症を悪化させますが、オメガ3脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸は炎症を軽減してくれます。
オメガ3脂肪酸に抗炎症作用のあることやその理由を示す研究は複数存在し、例えば "PLOS ONE"(2016年2月)に掲載されたナポリ大学の研究(ネズミの実験)でも、オメガ3脂肪酸を与えることで炎症と酸化ストレス(*)が軽減されることが示されています。"American Journal of Clinical Nutrition"(2016年6月)に掲載された研究によると、同じオメガ3脂肪酸であっても、DHAよりEPAの方が炎症を軽減する効果を強く発揮します。 この研究の被験者は腹部の肥満により慢性的な炎症が生じている男女150人で、EPAまたはDHAの服用量は約3g/日でした。
ただし、オメガ3脂肪酸は人体において抗炎症作用を発揮しないとする研究も発表されています。野菜ならアブラナ科?
中国で行われ "Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics"(2014年)に掲載された研究で、アブラナ科の野菜をよく食べる人は炎症が少ないという結果になっています。 ブロッコリーや、キャベツ、カリフラワー、ケール、白菜、チンゲン菜などがアブラナ科の野菜です。
野菜や果物は全般的に抗炎症効果が期待できるはずです。 野菜・果物には、炎症を促進する作用のある炭水化物や飽和脂肪などの含有量に比して、炎症を抑制する作用のあるビタミン類・カロテノイド・ミネラル・ポリフェノール類が多く含まれているためです。 ベジタリアン(菜食主義者)は全身的に炎症が少ないという研究も複数存在します。
ところが、この中国の研究では、アブラナ科以外の野菜の摂取量が多くても炎症が少ないわけではありませんでした。 アブラナ科野菜に関してのみ、摂取量が多いと炎症が少ないという関係が見られたのです。
ビタミンとミネラルと食物繊維
上述のローレン博士は、抗炎症作用があるビタミンとしてビタミンCとビタミンEとビタミンKを挙げていますが、サウス・カロライナ大学の研究によると他のビタミンやミネラルにも抗炎症作用があります。
ビタミンD
ビタミンの中で特筆すべきはビタミンDです。 抗酸化物質として有名なビタミンCやEにも強い抗炎症作用がありますが、ビタミンDにはビタミンCやEを上回る抗炎症作用があります。 ビタミンD不足が炎症の発生に関与している可能性を示す研究も存在します。 ビタミンDはサプリメントで摂っても良いのですが、皮膚に紫外線が当たるとビタミンDが合成されるため、天気が良い日には15分間ほど日光に当たることで十分に補給できます。
ミネラルや食物繊維
ビタミンC・D・E以外にも、ビタミンA・βカロチン・ビタミンB6・亜鉛・マグネシウムといった栄養素に強い抗炎症効果があります。 βカロチンやマグネシウムにはビタミンC・D・Eを超える強力な抗炎症作用がありますが、最近は亜鉛の抗炎症効果が注目されているようで複数の研究が発表されています。 亜鉛は赤身肉・貝類・乳製品・豆類・ナッツ類に豊富に含まれています。
また、サウス・カロライナ大学の研究によると食物繊維にはビタミンやミネラルを超える非常に強い抗炎症効果が期待できます。
マンガンは炎症を抑えるどころか炎症を促進してしまう恐れがあります。 マンガンは人体にとって必須のミネラルですが、サプリメントなどによる摂り過ぎには注意が必要です。
サプリメントでも良い
多数の研究者が、ビタミンやミネラルなどの栄養素をサプリメントで摂るよりは栄養素を含む食品を食べることを推奨しています。 野菜や果物などの健康的な食品には様々な栄養素が同時に含まれているので、そうした栄養素を同時に摂ることによってシナジー効果(相乗効果)が期待できるというわけです。
ワイル博士のおすすめサプリ
しかし、抗炎症食の提唱者としても著名なアンドリュー・ワイル医学博士(アリゾナ大学)によると、サプリメントの服用も慢性炎症の低減において有益です。
ワイル博士は抗酸化物質やオメガ3脂肪酸のサプリメントを次のように服用することを推奨しています:- ビタミンC(200mg/日)
- ビタミンE(400IU/日)
- セレン(200μg/日)*
- カロテノイド類(1万~1.5万IU/日)†
- オメガ3脂肪酸のサプリメント‡
- コエンザイムQ10(60~100mg/日)
* イースト菌が配合されたもの。
† βカロチンや、リコピン、ルテインなど。
‡ 魚を週に2回以上食べない場合。サプリメントの効果的な服用方法
サプリメントは次のように服用すると効果的です:- マルチビタミンやマルチミネラルの形で服用する。
- 1日の主要な食事をした直後に服用する。
炎症を抑えるのに適したオヤツと飲み物
チョコレート
2016年に発表されたルイジアナ州立大学の研究によると、チョコレートを食べると腸内細菌がそれをエサとして発酵させるときに、抗炎症作用のある化合物が生産されます。 そうして作り出された抗炎症物質は人体に吸収されて、心臓や血管の炎症を低減してくれます。
ナッツ類
2016年に発表されたハーバード大学の研究によると、ナッツ類にも慢性炎症を低減する効果が期待できます。
アーモンドや、ピスタチオ、マカダミアナッツといった様々なナッツ類(ピーナッツを含む)を食べる量が多い人は炎症マーカー(炎症の程度を示す血中の物質)の血中濃度が低かったのです。 ナッツ類を食べる量の目安は週に5食分以上です(1食分は30gほど)。
ナッツ類は種類にもよりますが、食物繊維・マグネシウム・セレニウム・オメガ3脂肪酸・ビタミンE・フラボノイド類など抗炎症・抗酸化効果がある様々な成分を含有しています。
フルーツ
"Nutrients" 誌(2015年)に掲載されたオークランド大学の研究によると、果物も炎症を抑えるのに適した食べ物です。 この研究では12種類の果物(マンゴー、ラズベリー、いちご、梨など)の抗炎症作用を調べて、大部分の果物で抗炎症作用が認められるという結果になっています。 抗炎症作用が特に強かったのはフェイジョアというフトモモ科の果物とブラックベリーでした。 また、果肉よりも果皮の抗炎症作用が強力でした。
飲み物
紅茶・緑茶・コーヒーに抗炎症作用があります。 コーヒー豆は浅煎りのほうが抗炎症効果が強くなります。 コーヒーや紅茶に大量に含まれるカフェインには炎症を促進する作用と抑制する作用の両方があるようなので、万全を期すならばコーヒーや紅茶はノンカフェイン(カフェイン抜き)のものにすると良いでしょう。
抗炎症効果のある食品に関する最近の研究
"British Journal of Nutrition"(2016年)に掲載されたリバプール大学の研究では、タマネギ・色の濃いブドウ・ターメリック(ウコン)・緑茶ポリフェノールによって、免疫系が過剰な炎症を引き起こすのにブレーキがかかることが示されています。
タマネギにはケルセチンというポリフェノールが人体に吸収されやすい形で含まれています。 "European Journal of Clinical Nutrition"(2017年)に掲載されたメタ分析では10の臨床試験のデータを分析して、ケルセチンのサプリメント(500mg/日以上)に抗炎症効果が期待できるという結果になっています。 また、ターメリックには強力な抗炎症作用で知られるクルクミンというポリフェノールが含まれています。- サウス・カロライナ大学が 2014年に発表した研究でも同様に、玉ねぎ・ ニンニク・生姜・ターメリック・紅茶・緑茶・フラボノイド類に強い抗炎症作用があるという結果になっています。
- コロラド州立大学が 2015年に発表した研究によると、ターメリックのほか、シナモン、クミン(ヒメウイキョウ)、ショウガ、コリアンダーなどの香辛料にも炎症を抑制する効果が期待できます。 ついでながらこの研究を報じたプレスリリースでは、エクストラバージン・オリーブオイルや全粒穀物も炎症を抑えるのに望ましい食品だとされています。 全粒穀物には食物繊維が豊富に含まれています。
- "Current Pharmaceutical Design" 誌(2017年)に掲載されたメタ分析では、マグネシウムのサプリメントのCRP血中濃度(炎症の指標)への効果を調べた11の臨床試験のデータを分析して、CRP血中濃度が軽度の炎症の基準値(0.3mg/dL)を超えている場合に限りマグネシウムのサプリメントがCRPを低減する効果を発揮する(低下幅は-0.1mg/dLほど)という結果になっています。
- "Journal of Investigative Dermatology"(2017年)に発表された研究によると、日焼けによる皮膚の炎症の抑制にビタミンDのサプリメントの経口服用が有効かもしれません。 紫外線で日焼けしてから1時間後にビタミンDのサプリメントを飲むことで、皮膚の炎症が軽減され、皮膚バリアが修復が促進されるという結果でした。
- "Atherosclerosis" 誌(2017年)に発表されたリンショーピング大学(スウェーデン)の研究では冠動脈疾患の患者193人を調べて、カロテノイドの一種であるルテインの血中濃度が高い患者は炎症が軽度である(炎症のバイオマーカーであるIL-6の数値が低い)という結果になっています。 ルテインは青葉の野菜や卵黄に豊富に含まれています。