質の悪い睡眠がガンの原因になる可能性

"Cancer Research" 誌(2014年1月)に掲載された米国の研究によると、夜中に何度も目が覚めるなどの質の悪い睡眠によってガンの侵攻性(増殖の速さ)が強くなり、初期のガンを免疫系が抑制・根絶できなくなる可能性があります。

この研究では、マウスを2つのグループに分けて、一方のグループの睡眠を2分おきに邪魔する(無音仕様の電動ブラシが飼育カゴ全体を通過するようにした)という実験を行いました。 もう一方のグループは、普通に眠らせました。

これを7日間続けた後、両グループに腫瘍の元(TC-1 または 3LLC)を注射しました。 9~12日以内に、いずれのマウスにも触ってわかるほどの腫瘍が出来ました。

そして、注射から4週間後に両グループのマウスの腫瘍を評価したところ、睡眠を阻害されたグループのマウスでは、TC-1 と 3LLC のいずれのタイプを注射されたマウスでも腫瘍のサイズが睡眠を阻害されなかったグループの2倍になっていました。

その後の追加実験で、腫瘍細胞を太股の筋肉に移植したところ、太股の筋肉では腫瘍の成長が抑制されるはずなのに、睡眠を阻害されたマウスでは腫瘍の侵攻性が強く、周囲の組織にまで浸潤してゆきました。 通常であれば、固められて球状になってしまうはずの腫瘍が、睡眠を阻害されたマウスでは、周囲の筋肉、そして骨にまで浸潤していったのです。

メカニズム
睡眠の質は、「腫瘍関連マクロファージ(TAM)」と呼ばれる免疫細胞に影響を与えると考えられます。 TAM は、受け取る化学的シグナルによって腫瘍を抑制したり助長したりします。 すなわち TAM は、M1 というシグナルを受け取ると、強力な免疫応答を促進して腫瘍細胞を除去しますが、M2 というシグナルを受け取ると、免疫応答を抑制するだけでなく、新しい血管の成長を促進することでガンの成長を助長します。

睡眠を十分に取ったマウスでは M1 を受け取った TAM(M1型TAM)が主に見られたのに対して、睡眠を阻害されたマウスでは M2 を受け取った TAM(M2型TAM)が多く見られました。 また、TAM は腫瘍の現場に集まる性質がありますが、M1型とM2型とでは集まる場所に違いがありました。 M1型TAM が腫瘍の中心部に集まっていたのに対して、M2型TAM は腫瘍の周辺部に多く存在していたのです。 さらに、睡眠を阻害されたマウスでは、TLR4(後述)の増加も見られました。

M2型TAM の増加には、TLR4(Toll様受容体4)、MYD88、そして TRIF という3種類の分子が関与していると考えられます。 これら3種類の分子のいずれか1種類を持たないマウス3種類に腫瘍細胞を注射して睡眠を阻害したところ、シグナル経路の下流に位置する MYD88 と TRIF を持たないマウスでは腫瘍の成長が(睡眠を阻害された他のマウスに比べて)僅かに軽減されただけでしたが、TLR4 を持たないマウスでは睡眠を阻害されていないマウスと同程度にしか腫瘍が成長しなかったのです。