季節によって遺伝子の働きが変化する

(2015年5月) "Nature Communications" 誌に掲載されたケンブリッジ大学の研究で、季節によって遺伝子の働きが変化することが明らかになりました。 今回の発見は、冬季の方が心臓病やリウマチなどの病気が問題となりやすい理由の解明につながるかもしれません。出典: Seasonal immunity: Activity of thousands of genes differs from winter to summer. Licensed under CC BY-NC-SA 3.0

この研究によると、ヒトの遺伝子の1/4ほど(調査対象となった 22,822の遺伝子のうち 5,136)の活性が季節によって変化します。 冬に活性化する(*)遺伝子もあれば、夏に活性化する遺伝子もあります。 この遺伝子の季節性は、血液・脂肪の成分内容や免疫細胞に影響します。
(*) 発現量が増える。「発現」とは遺伝子の設計図に基づいて体内で特定のタンパク質が作られることです。

季節によって病状が変化する病気としては、心血管疾患(心臓病や脳卒中)・自己免疫疾患・1型糖尿病・多発性硬化症・精神障害などが知られていますが、これらの病状の変化が季節の変化が免疫機能に及ぼす影響によるものである可能性を示した研究は今回のものが初めてです。

研究の方法

今回の研究では、北半球または南半球(英国、米国、アイスランド、オーストラリア、ガンビアなど)に住んでいる男女1万6千人超の血液と脂肪組織のサンプルを調査しました。

結果

サンプルを採取した季節によって、血液・脂肪組織中に存在する数千もの遺伝子の発現量、および血液中に存在する細胞の種類に違いがありました。

ARNTL遺伝子
炎症抑制作用がマウス実験で示されている遺伝子にARNTLと呼ばれるものがありますが、今回の研究において夏に活性化し冬には活性が減少していました。 したがって、ARNTL遺伝子の働きがヒトでもマウスと同じであるとすれば、冬には炎症が増加することになります。 炎症は様々な病気のリスク要因であるため、病気が発症する一歩手前の人では冬に増加する炎症が最後の一藁となって発症の引き金となる可能性があります。
予防接種の効き目にも影響

予防接種の効果に関与する遺伝子群は冬に活性化していました。 したがって予防接種は(冬の前ではなく)冬が到来して免疫系が予防接種に反応する態勢が整ってから行う方が効果的かもしれません。

環境による違い

興味深いことに、ガンビア(西アフリカ)で6~10月に採取したサンプルでは血中の免疫細胞の数が(他の地域で同じ時期に採取したサンプルとは)異なっていました。 ガンビアでは雨季に当たるこの時期にマラリアなどの感染症が増加します。

また、アイスランド人から採取したサンプルでは季節性があまり見られませんでした。 アイスランドに特有の環境(夏にはほぼ一日中が昼で、冬には逆にほぼ一日中が夜になる)が原因だと思われます。

免疫系に季節性が生じる理由
季節によって免疫系に変化が生じるメカニズムは不明ですが、日照時間や気温などの環境的な要因が引き金となっている可能性が考えられます。