ジェネリック薬発売先延ばし取引の是非

(2013年3月) 米国の連邦取引委員会(FTC)が、先発医薬品のメーカーとジェネリック医薬品のメーカーが裁判所による和解の結果としてジェネリック薬発売延期取引をしたのを非競争的だとして訴えており、この訴えが地方裁判所と巡回裁判所(上訴審)の両方で棄却されたので、最高裁判所で争われることになりました。

先発医薬品メーカーは、ジェネリック薬を作る他の製薬会社に金銭を支払い、その見返りとしてジェネリック薬の発売を数年ほど遅らせてもらっています。

こうすることで先発薬を作っている会社は、安価なジェネリック薬との競合を避けているわけです。 ジェネリック薬は先発薬の1/10以下の値段になることもあります。

米政府(≒FTC)は、このような取引("pay-for-delay"、支払いを対価とするジェネリック薬発売先延ばし)で先発薬のメーカーが35億ドル利益を得ているが、米国の消費者がその分だけ損をしていると、製薬会社を非難しており、複数の消費者グループと米国医師会の賛同を得ています。 (米国でジェネリック薬のお陰で削減されたコスト(患者の支払い、保険の負担、税金)は、2011年だけで1930億ドルになります)

これに対して各製薬会社は、①新薬を開発するのにかかった数十億ドルのコストを取り戻すために、特許を得た医薬品で長期間にわたって利益を得る必要があり、さらに②このジェネリック薬発売延期取引によって、むしろジェネリック医薬品のマーケティングが促進される(下記参照)のだと主張しています。

ジェネリック医薬品のメーカー(以下「Gメーカー」)は、先発薬の特許の期限(20年間)が切れる前にジェネリック医薬品を発売したいので、先発薬の特許が(特許に不備があるなどの理由で)無効であることを米国食品医薬局(FDA)に申し立てます。

先発薬のメーカー(以下「先メーカー」)は、Gメーカーによるこの行動に対して、Gメーカーを訴えます。 このようにして始まった訴訟は数年にも渡って争われます。 この手の訴訟では、どちらが勝訴するのか予見できないうえ、非常にコストがかかります。 そこで、両者の間で和解になるケースが少なくありません。 典型的な和解の内容は、Gメーカーが先発薬の特許が切れる数年前の時点でジェネリック医薬品の販売を認めるというのもです。 つまり、20年という特許の期限が数年早めに切れるのと同じ効果をGメーカーに与えるというわけです。 このような和解ではさらに、先メーカーがGメーカーに少なからぬ金額を支払います。

この金額が批判の対象となっているわけです。 そして、上記の「ジェネリック医薬品のマーケティングが促進される」というのは、訴訟が和解で終わらずに裁判となって、Gメーカーが敗訴した場合に比べれば、ジェネリック医薬品が数年早く世の中に出るという点を指しています。

RBC Capital Markets Corp. 社が行った調査によると、2000~2009年に生じた先発薬特許に関する訴訟371件のうち、先メーカーが勝訴したのは89件、Gメーカーが勝訴したのは82件。 そして、和解になったのが175件で、訴訟が取りやめになったのが25件。

米国政府は「ジェネリック薬発売延期取引は、ジェネリック医薬品を市場から排除しようという目的のみで行われるのであれば不法である」と主張しています。

製薬会社の主張
最高裁でこのたび争われる訴訟の対象となる和解において一方の当事者となった Actavis社のCEOは、「FTCが望むようにするのは消費者の利益となるどころか不利益となる」と述べています。

このCEOによると、例えばファイザー社が特許を持っているコレステロール低下薬のヒット商品「リピトール」の場合も、ファイザー社が和解(ジェネリック薬発売延期取引)を選択したことで、(特許が自然に切れた場合と比べて)消費者がざっと500億ドルほども得をしたのだそうです。

リピトールの特許は本来2017年まで有効でしたが、Actavis社などのGメーカーがこの特許に対して異議を申し立てたところ、ファイザー社は裁判で争うよりも和解することを選びました。 この和解により Actavis社ともう1社は、2011年の11月30日から、そして、他の数社はそのさらに半年後からリピトールよりも安いジェネリック品を販売できるようになりました。

リピトールの価格は三か月分で375~530ドル(用量により異なる)ですが、リピトールのジェネリック薬の価格は(同じく三か月分で)20~40ドルという安さで売られています。

売れ行きの良い薬の特許は、そのことごとくが、Gメーカーによる異議申し立てのターゲットにされてしまうため、FTC の主張の通りにするならば、先メーカーの訴訟費用は甚大なものとなり、新薬の開発にも資金面で支障をきたしかねません。

米国の連邦最高裁は、今年の後半にこの件を審議します。
この話の見出しを見たときには「金銭を支払い、その見返りとしてジェネリック薬の発売を数年ほど遅らせてもらう取引」という部分を鵜呑みにして、「先発薬の特許が切れてるのにジェネリック薬を作らせないようにしているのか」と腹を立てましたが、そうではなくて、特許が切れる前に先メーカーとGメーカーが争いを回避するためにやっていたのですね。

そういうことであれば、ジェネリック薬発売延期取引に問題はないだろうと思います。 ジェネリック薬発売延期取引が行われた場合でも、Gメーカーが何もせずに先発薬の特許期限が切れるのを待っているのに比べれば、先発薬の特許が自然に切れるよりも数年早くジェネリック薬が市場に出るわけですし。

ジェネリック薬発売延期取引をするなというのが(和解内容にもよるのかもしれませんが)和解をするなということであれば、ジェネリック薬発売延期取引を認めないというのは、勝敗が予見できない裁判を先メーカーとGメーカーに強制するということでしょう。