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ヒトは腸粘膜から善玉菌のエサを分泌している?

(2012年11月) "PLOS Biology" に掲載されたオックスフォード大学の研究によると、ヒトを含む動物では、腸から分泌される栄養分がエサとして善玉菌に選択的に与えられていると考えられます。
善玉菌

腸内細菌のうち人体にとって有益となるものが世間的に「善玉菌」と呼ばれています。 善玉菌は、ヒトが食べた食事の消化を助けるだけでなく、有害な細菌が増殖するのを抑制するという役目も果たしています。

抗生物質の使用や、栄養不良、健康状態の悪化などによって善玉菌の多様性が減少すると、C. difficile 菌による慢性的な下痢や、炎症性大腸炎、メタボリック・シンドロームなどのリスクが増加します。
研究の概要
動物における腸内細菌と腸の粘膜上皮の相互作用に関するコンピューター・モデルを用いて計算したところ、善玉菌は成長が遅くて(他の細菌との競争に負けて)すぐに消滅してしまうため、宿主(ヒトなどの動物)にエサを与えてもらわなくては生き残れない(つまり、腸内で生き残っているからには宿主からエサを与えられているはずである)という結果になりました。
腸内細菌(善玉菌)のエサのことをプレバイオティクスと言いますが、このプレバイオティクスを人体が自ら分泌しているのではないか、というわけです。

今回の研究ではさらに、善玉菌の成長をこのように促進するコストが少ないことも明らかになりました。 善玉菌を支援するのに必要な分泌物は極少量で足りるというわけです。

解説
研究者は次のように述べています:

「私たちの体に住む細菌の数は、私たちの体を構成する細胞の数よりも遥かに多く、腸には特に大量の細菌が住んでいます。 これらの細菌の中には私たちにとって有益であるものも多く、バイキンから私たちを守ったり、消化を助けたりしてくれます。 しかしこれまで、有益な細菌との相互関係が成り立ち、維持される仕組みは不明でした」

「今回の研究では、腸内細菌のコントロールにおいて善玉菌の成長を促進する物質が重要であることに焦点を当てました。 食事などにより腸に送り込まれる栄養分よりも、腸の粘膜上皮を通して与えられる栄養分の方が効果的であること、そして腸内細菌のコントロールが思っていたよりも簡単であることが示唆されました」
別の研究者は次のように述べています:
「腸内は細菌にとっての戦場で、実に多様な細菌が生存競争を繰り広げ、勢力争いをしています。 今回の研究で、宿主が栄養分を分泌するだけで、この生存競争を善玉菌に有利にしてやれることが示されました。 普通なら負けてしまう善玉菌が、宿主の栄養分を得ると、競争に負けないどころか勢力を広げて、他の細菌を隅に追いやってしまうのです」

今回のシミュレーションでは、宿主が腸粘膜上皮から栄養分を分泌することで、善玉菌が有利になり、他の細菌よりも長生きして「選択による増幅(selectivity amplification)」が生じることが示されました。 「選択による増幅」とは、宿主が引き起こす小さな変化(ここでは栄養分の分泌)が増幅されて、大きな効果を生み出すことを言います。

今回の研究結果が適用されるのは、私たちのお腹の中だけではありません。 「選択による増幅」は、珊瑚の表面や植物の根などにおける微生物と宿主の相互作用にも適用される可能性があります。

腸粘膜から分泌されているのは善玉菌のエサだけではない

(2014年5月) "Gastrointestinal and Liver Physiology" 誌に掲載された Massachusetts General Hospital の研究によると、ヒトの腸の粘膜上皮からは『腸内アルカリ性ホスファターゼ(IAP)』と呼ばれる酵素が分泌されていて、それが ATP(アデノシン三リン酸)の作用を遮断することによって善玉菌の成長を促進しています。 ATP には、細菌の成長を阻害する作用があります。

同じ研究チームがによる過去の研究では、IAP に病原菌が腸壁を通り過ぎるのを阻止する作用のあることが示されています。

この研究はマウス実験によるものなので、ヒトでも同じかどうかを別の研究で確認する必要があります。
IAP が善玉菌の成長のみを促進し他の腸内細菌の成長は促進しない理由については、ソース記事に記述が無いため不明です。