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大人になってADHDが治ったように見えても実は治っていない?

(2015年8月) "European Child Adolescent Psychiatry" 誌に掲載されたケンブリッジ大学およびオウル大学(フィンランド)による研究で、思春期の頃に注意欠陥・多動性障害(ADHD)と診断された人は青年になった時点でも、脳の構造が普通とは異なっており記憶力テストの成績も悪いという結果になりました。

ADHDが治ったかどうかは主としてADHD診断基準を満たさなくなるかどうかで判断されますが、今回の結果から、成人後にADHDの診断基準に該当しなくなってもADHDの影響が残るのだと考えられます。

周辺情報

大人になって脳が発達するとADHDが自然と治るという説も一部で主張されていますが、この説を裏付ける明確な証拠はほぼ存在しません。 ADHDの子供が大人になるまで追跡したこれまでの研究の大部分では聞き取り調査に基づいてADHDの評価を行うだけであり、脳の構造や機能については調べられてきませんでした。

研究の内容

今回の研究では、思春期にADHDと診断された男女49人(以下「ADHDグループ」)が20~24才になったときに脳の構造と記憶機能を検査して、ADHDではない34人のグループ(以下「非ADHDグループ」)と比較しました。

ADHDグループは、ADHDとみなされる基準を満たしているか否かに関わらず脳の容積に異常があり、記憶機能も良くありませんでした。

脳の容積の異常

ADHDグループでは、尾状核と呼ばれる脳の奥深くに存在する領域の灰白質の量が少なくなっていました。 尾状核は脳の様々な領域の情報を統合するほか、記憶などの重要な認知機能にも関与しています。

脳構造の問題と記憶機能

尾状核の異常が記憶機能に実際的な悪影響をもたらしているかどうかを調べるため、ADHDグループのうち21人と非ADHDグループのうち23人を対象にワーキング・メモリーのテストを実施し、テスト中の脳の活動をfMRI(機能核磁気共鳴断層装置)を用いて撮影しました。

ADHDグループは成績が悪かった

非ADHDグループではワーキング・メモリーのテストで不合格となったのが20人につき1人未満の割合だったのに対して、ADHDグループでは1/3が不合格でした。 さらに、ADHDグループでテストに合格した人たちであっても、非ADHDグループに比べてテストの成績が平均で6%低くなっていました。

テスト結果と尾状核の関係

fMRIの検査結果を見たところ、ワーキング・メモリーのテスト結果が悪い人では尾状核が状況に反応しないという関係があるように思われました。

非ADHDグループではテストの内容が難しくなると尾状核が活発化しており、それがテストの好成績につながっているように見受けられたのですが、ADHDグループではテストを受けているあいだ尾状核の活性が一貫して同じ水準だったのです。

研究者は次のように述べています:
「ADHDグループでは尾状核が小さいだけでなく、ワーキング・メモリー要求量の増加に尾状核が反応できていないようでした。 テストの成績が悪かったのもそのためでしょう」
ADHDの診断基準は無関係

そしてADHDグループにおいて、尾状核に異常が見られるかどうかにもワーキング・メモリーのテストの成績にも、成人後の時点でADHDの診断基準に当てはまるか否かは無関係でした。(ADHDの診断基準に当てはまらなくなっていた人でも尾状核に異常があったりテストの成績が悪かったりした)

補足
フィンランドではADHDの治療に薬物が用いられることが稀であり、今回のADHDグループでも薬物治療歴があるのは1人だけでした。 したがって今回の研究では、薬物治療により研究結果が歪められている可能性はありません。