腸内細菌が血圧の調節に関与するメカニズムが明らかに

(2013年3月)"Proceedings of the National Academy of Sciences" に掲載されたイェール大学などの研究により、腸内細菌が血圧の調整に関与している可能性が示唆されています。 鼻に存在する臭いを感知する受容体が体内の血管全体にも存在しており、この受容体が、腸内において腸内細菌の生産する小さな分子に反応して血圧を上げるというのです。

この研究では、マウスと培養組織を用いた実験を行いました。 今回の発見により、抗生物質や乳酸菌、食事の変化などで血圧が変動する仕組みの理解が進むことが期待されます。

受容体とは細胞の表面に多く存在するタンパク質のことで、特定の分子とのみ結びつき、これに反応します。 特定の分子は、化学的な信号であって、細胞に指示を出します。 指示の内容は、「分裂しろ」や「死滅しろ」、「特定の物質が細胞内に入るのを許可しろ」、「特定の物質が細胞内から出るのを許可しろ」などです。

臭いを感知する受容体 - Olfr78

数年前に、研究グループのうちの一人が、腎臓にも臭いを感知する受容体(Olfr78)のあることを発見しています。 Olfr78 はそれまで、鼻にしか存在しないと考えられていましたが、腎臓動脈の主要な支脈を始め、腎臓のフィルターにつながる微小な動脈や静脈にも点々と存在していたのです。

その後の研究で、Olfr78 が実は体中の微小血管の血管壁にも存在することがわかりました。 Olfr78は特に、心臓・横隔膜・骨格筋・皮膚に多く存在します。

腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸が血圧に影響

そこで今回研究グループは、Olfr78 にどのような分子が結びつくのかを調べ始めました。 細胞を改造することによって、細胞表面の Olfr78 を発現させ、さらに、分子が結びついた Olfr78 が発光化学物質を放出するようにしたのです。

このように改造された細胞に対して様々な分子を試したところ、Olfr78 が結びつくのが酢酸(いわゆる「酢」)とプロピオン酸塩であることが判明しました。

酢酸、その派生物である酢酸塩、およびプロピオン酸塩はいずれも、短鎖脂肪酸(SCFA)という分子の一種であり、体内では、大腸に住む細菌が可溶性繊維をエサに発酵を行うことで作られます。 こうして作られた SCFA は血流中に吸収され、血管壁に存在する Olfr78 に作用します。

研究グループが、遺伝子操作により Olfr78 を持たないマウスに SCFA を投与したところ、マウスの血圧が下がりました。 Olfr78 受容体を持っている普通のマウスにSCFAを投与しても、マウスの血圧は下がりましたが、 Olfr78 を持たない改造マウスほどではありませんでした。

別の受容体が関与していた!

Olfr78 が SCFA と結びついて血圧が上がると考えていた研究グループは、この結果に困惑してしまいました。 そこで次に、マウスの体内から SCFA を全て(マウスの腸内細菌が作り出すものも含めて)除去してみることにしました。 マウスにとってはいい迷惑なのですが、マウスたちを三週間にわたって抗生物質漬けにしたのです。

すると、通常のマウスでは血圧がほとんど変化しませんでしたが、Olfr78 を持たない改造マウスでは血圧が上がりました。

このことから、Olfr78と SCFAと、血圧との関係が思っていたより面倒であることに気づいた研究グループが他の要因を探して研究を重ねた末、Gpr41 という受容体も SCFA と結びつくことが判明しました。 Gpr41 は臭いの感知には関係していない受容体なのですが、SCFA と結びついて血圧を下げていたのです。

結局のところ SCFA は、Olfr78 と結びつくと血圧を上昇させ、Gpr41 と結びつくと血圧を降下させていました。 しかし、Olfr78 よりも Gpr41 のほうが作用が強いために、SCFA を増加させると血圧が下がっていたのでした。

酢酸を作り出すのはビフィズス菌

以上から、腸内の酢酸の量を増やすと血圧が下がりそうな気がするのですが、検索で調べたところ、乳酸菌には乳酸のみを作るタイプのものと、乳酸と酢酸を作るタイプのものがあり、後者で有名なのがビフィズス菌であるようです。

Wikipediaによると、お酒を飲んでも体内で酢酸が生産されます。

ヨーグルトに血圧を下げる効果があるという研究もありますが、この研究で使われたヨーグルトの種類は不明です。

乳酸もSCFA
ふと思いついて調べてみたら、SCFA(短鎖脂肪酸)には乳酸も含まれていました。 つまり、ヨーグルトであれば乳酸菌の種類にかかわらず血圧を下げてくれるということでしょうか。