心不全でガンのリスクが増加?

(2016年7月) "Journal of the American College of Cardiology" に掲載されたメイヨー・クリニック(米国)などの研究で、心不全とガンの発症リスクとの関係が調査されています。

予備知識
心不全とは

心不全とは、心臓の構造や機能に影響する様々な異常の総称です。 心不全になってから時間が経過するうちに、心臓は体が必要とするだけの血液と酸素を送り出せないようになってきます。 心不全は他の心臓病に比べて死亡リスクが高めです。

心不全とガンの意外な関係

心不全による死亡は、心不全の症状・血液供給量不足・不整脈など心臓関連の原因によることが多いのですが、ガンなど心臓以外の原因による死亡も徐々に認知されつつあります。

ガンは心臓病とは別の死因とみなされるのが普通ですが、心臓病とガンのリスクの増加との関係について調べた研究も複数行われています。 今回の研究チームの以前の研究でも、心不全患者はガンと診断されるリスクが70%高いという結果になっています。

研究の方法

初めて心臓発作になった患者1千人超を約5年間にわたり追跡調査したデータを用いて、心不全の有無とガンになるリスクとの関係を調べました。

単に心不全の有無でガンのリスクを比較したのでなく「心臓発作の後で」という条件を設けたのは、こうすることによって、心不全があるグループと無いグループとに共通する性質(*)を揃えられる為です。 年齢・肥満度・喫煙習慣・糖尿病の有無などの(ガンのリスクの)要因は(分析においてどのように補正すればいいのかが)既に知られているので、(こういうことをしなくても)補正が可能です。
(*) アテローム性動脈硬化の存在、(心臓発作の?)リスク要因、心臓発作後に受ける治療など。
結果

追跡期間中に心不全と診断されたのは228人(21%)で、この228人のうちガンになったのは28人(12.3%)でした。 これに対して、心不全にならなかったグループでガンと診断されたのは8.2%でした。

最初に心臓発作になってからガンと診断されるまでの期間は平均2.8年で、ガンの種類として最も多かったのは呼吸器・消化器・造血器のガンでした。

心不全があるとガンのリスクが増加

追跡を開始した当初は、心不全の有無によるガン発症リスクの違いは見られませんでした。 しかし追跡開始から1.5年が経過すると、心不全になったグループでガンの発生率が高くなっていました。 年齢・性別・心不全以外の持病・喫煙習慣・BMI・糖尿病の有無を考慮しても、心不全があるとガンのリスクが高いという関係は消滅しませんでした。

診療の頻度が増えたためではない

心臓発作後に心不全になったグループでガンと診断されることが増えていたのが、心不全になることによって医師の診療を受ける頻度が増えるためであるという可能性も考えられます。

しかし、心不全によって診療の頻度が増えるのは心不全と診断されてから間もないうちだけです。 そして、今回の研究では追跡開始から1.5年が経過した後にガンのリスクに差が生じていたことから、心不全になったグループでガンと診断されることが増えたのは診療の頻度が増えたためではない、少なくともそれが主な理由ではないと考えられます

心臓の薬のせいでもない

心臓病の薬の影響でガンのリスクが増えている可能性も考えられますが、心臓発作後に心不全と診断されたグループは、心不全と診断されなかったグループと同じ薬を退院時に処方されていました。 したがって、処方される薬の違いがガンのリスクの違いの原因であるというわけでもなさそうです。

解説
この論文のエディトリアルを執筆した研究者によると、心不全のグループに呼吸器のガンと消化器のガンが多かったことから、ガンのリスク増加と心不全との関係には喫煙や飲酒などの要因(*)が関与している可能性があります。
(*) 「喫煙や飲酒によって、呼吸器のガンや消化器のガンのリスクと心不全のリスクの両方が増加したのではないか」ということなのでしょう。 ただし、喫煙でリスクが増加するのは呼吸器のガンだけではありませんし、飲酒でリスクが増加するのも消化器ののガンだけではありません。
研究の弱点
今回の研究は統計学的には有意な結果となったものの、データの量が少なく心不全やガンになった人の数も少ないという弱点があります。