肥満 ⇒ 低酸素 ⇒ HIF-1α ⇒ 炎症 ⇒ 糖尿病/ガン

(2014年6月) "Cell" 誌に掲載されたテキサス大学などの研究により、肥満と2型糖尿病との関係に HIF-1αというタンパク質が関与していることが指摘されています。

この研究ではまず、脂肪細胞においてのみ HIF-1αが完全に欠如するようにマウスを遺伝子改造しました。 そして、この改造マウスを高脂肪のエサで肥満させて、インスリン抵抗性が増加するリスクや糖尿病を発症するリスクを未改造の肥満マウスと比較したところ、改造マウスでは肥満していてもインスリン抵抗性や糖尿病のリスクが未改造の肥満マウスと比べ物にならないほど低かったのです。

HIF-1 が炎症を引き起こすメカニズム

細胞は通常、酸素を消費してエネルギーを作り出しています。 しかし、激しい運動や高い山に登るなどで酸素が不足すると、細胞は低酸素と呼ばれる状態になります。 低酸素で酸素が不足している状態では、細胞は代謝を切り替えて、エネルギーではなく活性酸素を作るようになりますが、この活性酸素が細胞を傷つけたり殺したりしてしまいます。

そんな活性酸素によるダメージを緩和するために、低酸素細胞が作り出すのが HIF-1α(低酸素誘導因子-1)です。 HIF-1αは、活性酸素の生産を遮断して、炎症性細胞に「低酸素エリアへ移動しろ」というシグナルを出します。

そうして低酸素が生じているエリアへと集まってきた炎症性細胞は(活性酸素によって)傷んだ細胞を食べてしまうのですが、肥満の人では脂肪細胞が慢性的に低酸素の状態にあります。

コメント
研究者は次のように述べています:

「肥満者の脂肪細胞を見ると、重度の炎症が慢性的に生じています。 炎症性細胞は本来は悪者ではなく防御機構の一部として役立ってくれているのですが、肥満状態が続くと炎症状態も慢性化してしまいます」

「HIF-1αにしても、低酸素状態に適応するうえでは必要なのですが、肥満者では慢性的に活性化しており、それが問題なのです。 肥満者においては、HIF-1 が慢性的かつ過度に増加していて、慢性炎症の主要制御因子となっています」

「今回の研究でも、脂肪細胞から HIF-1 を除去した改造マウスでは、脂肪細胞が死滅せず、肥満でありながら脂肪組織の炎症が少なくなっていました。 そして、普通の肥満マウスに比べて、改造肥満マウスはインスリン感受性と耐糖能が良好でした」
「低酸素」はガンでもキーワード
研究者によると、複数の製薬会社が現在、主にガンの治療を目的として HIF-1α阻害薬を開発しています:
「ガン細胞はすごい速度で増殖するため、血管による酸素の供給が追いつかず常に低酸素状態にあります。 そこでガン細胞は低酸素状態で生き延びるために HIF-1αを利用するのです。 したがって、ガン細胞に存在する HIF-1αの作用を阻害できればガン細胞を殺せます」
今回の研究には、肥満とガンの関係肥満もガンのリスク要因だと言われています)に対する理解を深めたいという目的もありました:
「肥満と一部のガンの間には明確な相関関係が見られます。 しかし、肥満によってガンのリスクが増加する理由はよくわかっていません。 腫瘍組織は低酸素状態、肥満者の脂肪組織も低酸素状態。 いずれについても HIF-1αが深く関与しているのですが...」
HIF-1α 阻害薬が完成すれば、2型糖尿病やインスリン抵抗性の治療にも使える可能性があります。