体温を上げると鬱症状が改善される

(2016年5月) "JAMA Psychiatry" に掲載されたアリゾナ大学などの研究によると、鬱病患者の体温を上げることによって鬱症状を緩和できる可能性があります。

小規模な二重盲検試験において体温を38.5℃まで上げることによって、その後6週間にわたり鬱症状が軽減されました。

試験の方法
ハミルトン鬱病評価尺度(HDRS)のスコアが16以上(*)の鬱病患者29人(18~65才)を2つのグループに分けて、一方のグループ(15人)には赤外線の機器を用いて全身を温めるという高温治療を行い、もう一方のグループ(14人)にはプラシーボとして、同じ機器を用いるけれども赤外線が弱くて体温はほとんど上がらないという偽の高温治療を施しました。
(*) HDRSのスコアが0~7点だと正常、8~13点だと軽度の抑鬱、14~18点だと中程度の抑鬱、そして19点以上だと重度~極度の抑鬱となります。
高温治療の内容

高温治療では、胸のあたりと両脚のあたりに赤外線を照射します。 深部体温(臓器など体の中心部の体温)が38.5℃に達すると治療終了です。 深部体温が38.5℃にまで達するのに要する時間は1時間30分ほどです。

結果

プラシーボのグループでも治療の当日から6週間後にかけてHDRSスコアが4点ほど下がっていましたが、高温治療を受けたグループはそれ以上にスコアが改善され、治療から2週間目以降には平均で13点ほどにまで下がっていました。

高温治療グループとプラシーボ・グループのHDRSスコアの差(平均値)は、治療から1週間後の時点では-6.53点、6週間後の時点では-4.27点というものでした。 様々な要因を考慮しても、両グループのスコア差の統計学的な有意性は消滅しませんでした。

ただし、患者本人による主観的な評価は、HDRSスコアで示された改善幅ほどではありませんでした。

解説

研究チームのメンバーの1人が以前に行った研究では、全身を温めることにより抗鬱剤を服用した時と同様に、脳においてセロトニンを合成するニューロンが活性化することが示されています。

さらに、皮膚を温めることで脳の領域のうち鬱病患者で活性が低下することが知られる部分が活性化することも知られています。 皮膚を温めることで活性化する脳領域の1つである内側眼窩前頭皮質は五感(聴覚・嗅覚・味覚・視覚など)を通じて受ける刺激に反応して気分を調節します。

留意点

今回の試験は被験者数が少なかったため、今後の研究で、高温療法を鬱病治療に用いる場合に最適となる温度設定や治療時間を特定する必要があります。

また今回の試験においては、被験者が高温治療に対して抱く期待感が試験結果に影響していた可能性があります。 プラシーボ・グループ14人のうち、偽の高温治療を本物の治療だと感じたのは10人でした。