インスリン療法による低血糖で睡眠中の心臓に異変が

(2014年4月) "Diabetes" 誌に掲載された英国の研究によると、糖尿病患者に生じる低血糖(血糖値が低い状態)が心臓に異常が起こる原因となる可能性があります。

今回の結果は、①2型糖尿病患者を対象に行われた大規模研究において血糖値を厳密にコントロールしているのに死亡率が想定以上となる理由や、②糖尿病以外の面では健康な1型糖尿病患者が睡眠中に死亡する「睡眠時死亡症候群(dead-in-bed syndrome)」の原因に関わっていると考えられます。
糖尿病と低血糖

糖尿病とは血糖値が高くなる病気ですが、糖尿病患者に低血糖は珍しくありません。 血糖値を下げる薬(インスリンなど)によって血糖値が下がり過ぎてしまうためです。

低血糖は1型糖尿病患者(インスリンが膵臓でほとんど生産されないために1日に複数回のインスリン注射が必要となる)に多いのですが、2型糖尿病患者では1型糖尿病患者に比べるとあまり問題視されていませんでした。
研究の内容
方法

今回の研究では、心臓疾患のリスク要因を抱えている2型糖尿病患者25名の血糖値と心臓活動を、5日間にわたって測定しました。 患者の平均年齢は64才で、いずれも4年以上にわたってインスリン療法を続けている人たちでした。

血糖値の測定には持続血糖測定器を用い、心臓活動の測定にはホルター心電計を用いました。 いずれも携帯型の機器であるため、患者たちは5日間のあいだも普段どおりの生活を続けました。

結果

全体的に見て(たぶん患者25名の5日間の合計で)、血糖値が正常だった時間は 1,258時間、高血糖だった時間は 65時間、そして低血糖(この研究では63mg/dL 未満と定義。 63mg/dL 程度の低血糖は本人に自覚がないことも多い)だった時間は 134時間でした。(合計 1,457時間。 25人で5日間24時間だと 3,000時間になるので、1日中機器を身に付けていたのではないのでしょうか?) 糖尿病患者が1日のうちの10%以上も低血糖状態であったのには、研究チームにとっても少々驚いたそうです。

主な結果は次の通りです:
  • 夜間に低血糖になったときに、心拍数の低下のリスクが血糖値が正常なときの8倍になっていた。
  • 夜間に低血糖になったときには、不整脈(心拍の異常)も有意に増加していた。
  • 日中には心拍数の低下は起こっていなかった。
  • 患者が低血糖の症状を自覚しているときには、不整脈は起こっていなかった。
コメント
研究者は次のように述べています:

「今回の研究では、インスリン療法による特発性の(spontaneous、特に原因が無い)低血糖が生じたときに無症候性の(自覚症状が無い)軽度な心臓不整脈のリスクが増加することが示されました」

「当研究チームが行った複数の動物実験でも、インスリン投与による低血糖が生じているときに同様の不整脈が起きていました。 そして、血糖値が非常に低くなったときには、致命的な不整脈まで起こっていました」

「これらのヒトと動物のデータから、インスリン療法を行っている糖尿病患者において重度の低血糖に起因する不整脈が突然死の一因となっている可能性があると思われます」

「夜間の低血糖は大きな問題です。 夜間(の睡眠中?)には低血糖の症状が比較的わかり難くなるため、低血糖の兆候が出ていても気付き難いのです」
米国糖尿病学会の前会長である John Anderson 博士は次のように述べています:

「血糖値を厳密にコントロールする(ちょっとでも上がり過ぎないようにする)ことよりも安全にコントロール(下がり過ぎないようにする)ことの方が大切かもしれません。 心臓疾患のリスク要因を多数抱えている糖尿病患者の場合には特に、重度の低血糖にならないようにするというのも治療の主目的の1つとするべきでしょう。 インスリンを使用する場合、「午前3時の低血糖」には注意しましょう」

「2型糖尿病の患者は(1型糖尿病患者に比べて)持続血糖測定器をあまり使いませんが、心血管疾患の持病があるうえにインスリンも使用している2型糖尿病患者は持続血糖測定器の使用を検討しても良いかもしれません」
最後の点については、今回の研究者も「持続血糖測定器やインスリン・ポンプを活用することによって、血糖値を厳密にコントロールしつつ低血糖の回避も出来ると考えられる」と同じ意見を述べています。