炎症性腸疾患(IBD)の原因は胃腸の感染症か?

(2012年8月) "Science" 誌に掲載された米国立アレルギー感染病研究所の研究(マウス実験)で、胃腸の感染症が、その後の炎症性腸疾患(IBD)の原因になっている可能性が示唆されています。 胃腸の感染症により免疫系が暴走して善玉の腸内細菌までターゲットにするというのです。

善玉菌と免疫系

胃腸には善玉菌たちがコミュニティーを作り、宿主である人間と共生しながら暮らしています。 この善玉菌たちは、人間の体では賄(まかな)うことのできない栄養分と代謝機能を人間に提供してくれています。 善玉菌は人間の健康に取って欠かせない存在なのです。

胃腸は善玉菌の住処であるだけでなく、人体の中で最もバイキンに感染しやすい場所でもあります。 そのため人間の免疫機能は胃腸において頻繁に、善玉菌を攻撃せずにバイキンだけを撃退する必要に迫られます。

今回の研究

このような免疫系の機能を研究するために、トキソプラズマという寄生原虫をマウスに感染させて、マウスの善玉菌と免疫系がどうするかを実験しました。

その結果、原虫への感染によって善玉菌の振る舞いがおかしくなりました。 善玉菌が増えすぎて、血流中・肝臓・脾臓など通常は善玉菌が存在しないような場所にも侵入していたのです。

これに対して免疫系は、原虫だけではなく原虫と同じ場所に住んでいる善玉菌も攻撃対象とみなして攻撃し始めました。

解説

腸内の善玉菌がヒトの体内に散らばるのには、免疫系も一役買っていると考えられます。 強い免疫反応で、善玉菌をふだん腸内に閉じ込めている腸の細胞が傷つけられるからです。

免疫系は、原虫などの侵入者を排除した後も、侵入者の記憶を免疫細胞の一種である「メモリーT細胞」に残します。 このように記憶しておくことで、次に同じ侵入者がやって来たときにも素早く対応できるのです。 そして、今回の研究で明らかになったのですが、メモリーT細胞はこのとき善玉菌まで侵入者として記憶してしまいます。 メモリーT細胞のこの記憶は、マウスが生きている間はずっと残るようでした。

クローン病との関わり

今回のこの発見は、クローン病の原因解明につながる可能性があります。 クローン病は胃腸の慢性的な炎症の病気で、その症状は腹痛・便秘・下痢などです。 クローン病は自己免疫疾患(免疫系が自分の体を攻撃する)なので、その可能性は十分にあります。

重度の胃腸感染症のために、記憶T細胞が善玉菌を攻撃することを覚えてしまい、その後も胃腸感染を繰り返すたびに免疫反応が強化されてしまって、慢性的な自己免疫性の炎症になってしまったのがクローン病ではないかという仮説が成り立つわけです。