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人体にはイリシンが効果を発揮するほど存在しない?

(2015年3月) "Scientific Reports" 誌に掲載予定のデューク大学(米国)などの研究で、イリシンというホルモンが人体において効果を発揮することを示した研究群の大部分の信憑性が根本的に問われています。

イリシンは 2012年に "Nature" 誌に掲載された論文(*)において初めて言及されたホルモンで、寒さや運動によって放出されてダイエットに効果のある褐色脂肪を増やすなどの作用をもたらすとされてきました。
(*) FNDC5 という筋肉タンパク質の先っぽが運動に反応して切り落とされて血流に乗って脂肪組織へと送られ、そこで白色脂肪を褐色脂肪へと変換するという内容。

ところが今回の研究で、イリシンの血中濃度を測定するために大部分の研究で用いられていたELISA(enzyme linked immunosorbent assay)という検査技法を用いる(簡易的な)測定キットの抗体に欠陥のあることが明らかになったのです。 その欠陥とは、イリシンではないタンパク質をイリシンだと判定してしまうというものです。

したがって例えば、「運動によってイリシンの血中量が増える」という研究でも、それがELISAを用いてイリシン血中濃度の測定が行われたのであれば、運動によって増えていたのはイリシン以外のタンパク質だったということになります。

研究の概要

今回の研究では、80超のイリシン研究で用いられたELISA検査キットの抗体をウエスタン・ブロット法(電気泳動と標識抗体によるタンパク質サイズと量の解析)を用いて検査して、いずれの研究で用いられた抗体もイリシン以外のタンパク質に反応(交差反応)することを明らかにしました。

どのような血液サンプルを用いても(長距離を走らせた馬から採取した血液サンプルでも)、①抗体はイリシンのサイズのタンパク質を感知せず、②イリシンとはサイズが異なるタンパク質に強力に反応したのです。
研究チームはさらに、人工的に合成した2種類のイリシン(天然のイリシンと同様に糖が点在するものと、そのような糖が存在しないもの)を用いて同様の検査を繰り返しました。 血液サンプルにこの2種類のイリシンを様々な量で添加してウエスタン・ブロット法で検査したところ、2種類の人工イリシンのいずれでも、ELISAによってごく少量でも感知されました。 (2種類の人工イリシンの)期待サイズ(expected sizes)は20キロダルトンと13キロダルトンでした。

これまでに行われたイリシン関連の研究の大部分では、イリシンの血中濃度を測定するのにELISAを用いてきました。 ELISAの検査キットは複数のメーカーが販売しています。

今回の結果によって、これまでにELISAの検査キットを用いて行われたイリシン関連研究の結果はすべてその信憑性が疑われることになり、イリシンがヒトにおいて生理学的な役割を果たしている可能性も下がりました。

コメント
研究者は次のように述べています:
「他の研究でも、ヒトではFDNC5遺伝子がそもそも(進化の過程において)悪い方向に変異を起こしていることが示されています。 そのためにヒトは他の動物の1/100にも満たない量のイリシンしか生産できません。 ヒトはイリシンを作る能力を遺伝子的にノックアウト(除去)されているようなものなのです」