子供の発達に影響するのは母親の「主観的な」社会的地位

(2013年8月) 1950年代から複数の研究により、親の収入や教育水準などの(客観的な)社会経済学的な要因が、子供の健康や発達、認知機能に及ぼす影響することが示されてきましたが、今回 Boston Children's Hospital が行った研究によると、母親の社会的な地位に関する(主観的な)自覚が子供の脳の発達とストレスに影響します。

この研究によると、自らの社会的地位が低いと感じている母親の子供では、コルチゾールが増加し、海馬の活性が減少する傾向にあります。 コルチゾールとは、ホルモンの一種で、ストレスの指標となります。 海馬は、脳の器官の1つで長期記憶の形成(学習に必要)とストレス応答の減少を司っています。

研究の方法

8.3~11.8歳の子供たち38人から唾液サンプルを採取してコルチゾールの量を測定し、さらに、fMRI を用いて、このうちの19人の海馬の画像を撮影しました。 そして、子供たちの母親には、米国における自分自身の地位を1~10で評価してもらいました。

結果
主な結果は次の通りです:
  • 母親の自らの社会的地位(教育水準と収入)に関する自覚と、子供のコルチゾールの量のあいだに有意な相関関係が見られた(性別と年齢を考慮したうえでの結果)。 この結果は、動物実験(サルかな?)の結果とも合致する。 (つまり、母親が、自分の社会的な地位が低いと感じているほど、子供の唾液に含まれるコルチゾールの量が(したがってストレスが)増加しており、自分の社会的地位が高いと思っている母親ほど、子供のコルチゾールの量が減っていた)
  • 母親の自らの社会的地位に関する自覚と、子供の海馬の活性(学習中に測定した)とのあいだいも有意な相関関係が見られた。(こちらも性別と年齢を考慮したうえでの結果)
  • 一方、(母親の主観的な自覚に対して客観的な)母親の現実の教育水準と家族1人あたりの世帯収入(収入が多くても家族が多ければ世帯収入が多いとはみなされない)は、子供のコルチゾールの量および海馬の活性いずれとの間にも有意な相関関係が見られませんでした。
この結果から、子供の発達にとって重要なのが、母親の実際の社会経済学的な地位というよりは、母親が認識している自分の社会経済学的地位であることが示唆されます。
つまり、実際には教育水準が低くて収入も多くなくても、母親にそういう自覚が無ければ子供のコルチゾール量や海馬の活性に悪影響は無いということですね。 逆に言えば、世間の水準から見れば高学歴でお金持ちの母親であっても、彼女の属するコミュニティーが社会経済学的に非常に高レベルで、彼女の地位がそのコニュニティーにおいては学歴的にも収入的にも下位に位置するという場合には、母親の主観的には社会経済学的な低いということになり、子供のストレスや学習能力に悪影響があるかもしれません。
今回の研究では、過去に行われた動物実験の結果に反して、ストレスが海馬の働きに悪影響を与えるというエビデンスは得られませんでした。 コルチゾールの量と海馬の活性のあいだに関係が見られなかったのです。 ただし、これは今回研究対象となった子供たちの人数が少なかったためかもしれません。