「富裕層の税金を上げると税金が安いところに移住される」というのは迷信だった

(2016年5月) 最富裕層への課税について議論されるときには 「最富裕層は非常に国外へ流出しやすい。したがって最富裕層への課税は控えるべきだ」 という論法が用いられるのが常ですが、スタンフォード大学と米国財務省が行い "American Sociological Review" に掲載された研究によると、そうではないかもしれません。 米国の億万長者が税率の高い州から低い州へと移住するわけでもないことが示されたのです。出典: Study Dispels Myth About Propensity of U.S. Millionaires to Move From High to Low Tax States

研究者は次のように述べています:
「今回の研究では、節税目的で他の州へと移住する富裕者がいかに少数であるかが鮮明となりました。 節税が目当てで税率の高い州を逃げ出す億万長者もいることはいますが、ほとんど問題にならないほど少数です」
研究の方法

1999年~2011年の間に100万ドル以上を稼いだ億万長者の連邦所得税申告を調べました。 調査対象となった申告者の数は370万人で、所得税申告の数は4千5百万件でした。

また億万長者の比較対象として、米国で一般的な金額の所得税を申告した人(所得は様々)の中から1%を選びました。 この1%に含まれる申告者の数は260万人で、所得税申告の数は2千4百万件でした。

そして億万長者と一般人とで、研究期間中における居住地の変更率を比較しました。

結果

1年のうちに居住する州を変更する率が一般人では2.9%だったのに対して、億万長者では2.4%でした。 移住率が最も高かったのは最も低所得の層(年収1万ドルほど)で4.5%でした。

また研究者によると、富裕層が税金が高い州(ニュージャージー州やカリフォルニア州)を避けて税金が安い州(テキサス州やフロリダ州)に住んでいるというわけではありません。
増税により減る億万長者の数

米国の各州には平均で9千人超の億万長者が住んでいます。 この億万長者たちの税率を1%上げた場合に州外に逃げるのは、わずか23人だと推算されます。

移住を制限する要因

今回の研究によると、最富裕層の移住を制限する要因は家族です。 最富裕層は非常に高い率で、既婚で学校に通う年齢の子供がいます。 そういう状況では移住が困難です。

さらに、現代の億万長者は先祖代々の遺産を受け継ぐのではなく、弁護士・医師・経営者などとして働くことで高所得を得ます。 そして、100万ドル以上もの高所得を稼げるのは一生のうちの何年かに過ぎません。 そのような時期に移住すると所得に悪影響が生じかねません。

「移住を金持ちが享受する自由の1つであると思いがちですが、現実的には移住は社会的・経済的に高いコストを要求されます。 親類縁者や既存の社交関係と袂を分かって、新しい場所で再スタートを切る必要があるのです」
億万長者の移住先

億万長者は移住しにくい人種ですが、移住するときには税金の安い州に移住する傾向にあります。 今回の研究では、移住先はほぼ必ずフロリダ州(州の所得税がゼロ)でした。

ただし、フロリダ州が選ばれるのは州の所得税がタダだからというだけではないようです。 米国にはフロリダ州以外にもテキサス州やネバダ州など所得税がかからない州が9つありますが、億万長者はそのような州を移住先として選択しません。

研究者によると、フロリダ州が選ばれるのは気候的・地理的に快適だからです:
「仮にフロリダ州が 『富裕者税』という税を作っても、億万長者は依然としてフロリダ州を移住先に選ぶのではないでしょうか」
税率が移住欲に及ぼす影響

研究チームの試算によると、仮に米国のすべての州の税率がまったく同じとなって移住による節税のメリットが失われた場合にも億万長者の移住率は約2.2%であり、現在の2.4%とあまり違いません。

結論
研究者は次のように結論づけています:

「今回の研究では、『富裕者税』により税収が大いに増える一方で、デメリットはほとんど無いことが示されました」

「 『富裕者税』を課すようにしても、それによって逃げ出す億万長者は極めて限定的です。 富裕層への課税強化によって、教育・インフラ・公共サービスに使える税収が増えて、不平等が緩和されることが期待されます」