寄生虫のガンが宿主となるヒトにまで広がることがある

(2015年11月) "New England Journal of Medicine" に掲載された米国疾病対策センター(CDC)の研究で、免疫力が弱った人において寄生虫(Hymenolepis nana という小形条虫)に生じたガン細胞が宿主である人体に根付いてガンに似た腫瘍を引き起こすというケースが報告されています。

研究者は次のように述べています:

「人体に寄生する条虫(サナダムシ)のガンが宿主となる人に腫瘍を引き起こすという病気はこれまで知られていませんでした」

「この種の病気はめったに起こらないと思いますが、小形条虫は世界中に分布していますし、免疫力を低下させるHIVにかかっている人も世界に数百万人が存在しますから、今回報告されたのと同様のケースが確認されていないだけで実際にはもっと発生している可能性があります」
今回のケース

2013年にコロンビアの医師グループがCDCに、HIV陽性だが治療を受けていない41才の男性から採取された奇妙な肺腫瘍とリンパ節の診断に関して協力を求めました。 この男性の症状は、咳・発熱・虚弱感・体重の減少でした。

この腫瘍は、成長パターンはまぎれもなくガンのものでしたが、細胞のサイズが通常のガン細胞の1/10だったうえに、細胞同士が融合していました。 細胞の融合はヒトの細胞では滅多に見られません。

数多くの調査を行った後にようやく、男性の腫瘍に Hymenolepis nana のDNAが存在することが明らかになりました。 それから間もなく男性は死亡しました。

対処法

寄生虫由来の腫瘍の治療は一筋縄ではいかないかもしれません。 条虫由来の腫瘍には条虫感染症の治療薬は効かない可能性がありますし、ヒトのガン用の抗がん剤が効くかどうかも不明です。

Hymenolepis nana

Hymenolepis nana(H. nana) は条虫の中ではヒトに寄生することが最も多く、世界全体で7千5百万人が H. nana に感染しています。 H. nana の感染経路は、H. nana を媒介するネズミの糞や昆虫により汚染された食事、あるいは H. nana 感染者の排泄物です。

H. nana 感染症が多発しているのは、手洗いをする設備が無いなど衛生面に問題がある地域です。 このような地域を旅行するときには、手洗いと食事に気を付けましょう。 生野菜・果物は食べる前に洗うか、皮をむくか、加熱調理するようにします。

H. nana 感染症の症状

H. nana に感染しても大部分の人にはなんの症状も現れませんが、HIVへの感染やステロイド薬の服用などで免疫系が弱っている人では H. nana の増え過ぎが問題となります。

動物に寄生することが知られている条虫は3千種類ほどですが、その中で H. nana だけが卵から成虫という繁殖のサイクルを小腸内だけで繰り返すことが出来ます。 そのため、免疫力が弱っていて寄生虫を抑制する能力が衰えていると、H. nana が小腸内部で大量に増えることがあります。

条虫感染症が小腸の外部にまで及ぶことは滅多にありませんが、今回のコロンビア人男性のケースでは免疫力が弱っていたために条虫のガンが体中に広がったのだと思われます。