寄生虫がいない人体は不完全

(2012年11月) "PLOS Pathogens" 誌に掲載されたニューヨーク大学の研究によると、寄生虫を大腸炎の治療に利用できる可能性があります。 猿を使った実験において、寄生虫を寄生させることで腸内細菌のバランスが正常に戻る可能性があるというのです。

マウスを用いた過去の研究でも、潰瘍性大腸炎の治療に寄生虫が有効であることが示されています。

IBDと免疫系と寄生虫

大腸炎のような炎症性腸疾患(IBD)は、免疫系が有害ではない腸内細菌を間違って攻撃してしまうことで症状が悪化しているケースが少なくありません。

IBDは先進国に多く発展途上国では少ないのですが、研究者たちはその理由を、発展途上国では寄生虫(回虫などの蠕虫)に寄生されている人が多いからだと考えています。

寄生虫は人に寄生するように、そして人は寄生虫に寄生されるように進化してきたため、人体の免疫系は寄生虫の存在を前提として機能している可能性があります。 つまり寄生虫が不在の状態では、ヒトの免疫系は不完全であるというわけです。

専門家によると、多発性硬化症やアレルギーなどの治療への寄生虫の利用も研究されています。 医療への利用が期待されている寄生虫は鉤虫(裸足で歩いていると足の裏の皮膚から侵入するのだそうです)や豚鞭虫などです。


回虫(雌)
まだ可能性は残されている

将来的には残念なことに寄生虫そのものを利用するのではなく、寄生虫の作用を模した薬が開発されるようですが、現在はまだ実験段階なので本物の寄生虫が用いられています。 これまでにも複数の研究で、寄生虫を人に寄生させてIBDを治すという実験が行われてきました。 そして、寄生虫でIBDが治る仕組みが現時点では不明なため、寄生虫の作用を模した薬の開発には程遠いようです。

したがって、疑うことを知らない純真な小学生児童たちに、「これはお薬なのよ」とチョコレート・コーティングした寄生虫の卵を飲ませる日が来る可能性もまだ残されているわけです:
: 「あらあらダメよ。 噛んじゃダメ。 死んじゃうでしょ。 噛まずに丸呑みしなさい」
: 「何が死ぬの?」
研究の概要

今回の研究では、下痢で悩んでいる5匹のマカク(ニホンザルもマカクの一種)に鞭虫を寄生させました。 人に囚われているマカクは、(ストレスで)慢性的な下痢を起こすことが多いうえに、なかなか治らないのです。

寄生後には、5匹のうちの4匹で下痢が治り、体重が増え始めました。 また、腸内細菌のバランスも正常に戻っていました。

研究グループでは今後、人体に豚鞭虫を寄生させて大腸炎を治療するという試験を行う予定です。 楽しみですね。