「PART」という疾患をアルツハイマー病と区別

(2014年11月)"Acta Neuoropathologica" 誌に掲載されたケンタッキー大学などの研究により、原発性加齢性タウオパシー(primary age-related tauopathy、"PART")と呼ばれるアルツハイマー病に似た神経性疾患の定義と診断基準が決定されました。

PART は、認知機能障害という点からはアルツハイマー病と見分けがつきませんが、アルツハイマー病と違ってアミロイド・プラークの蓄積が見られません。

研究者は次のように述べています:
「アルツハイマー病と診断されるには、患者の脳に①アミロイドのプラークと②神経原線維濃縮体と呼ばれるτ(タウ)プロテインで出来た構造の2つが見られる必要があります。 しかし複数の解剖研究で、神経原線維濃縮体しか存在せず、アミロイドのプラークが見られないケースのあることが示されています」
アミロイドたんぱく質の蓄積によるプラークはアルツハイマー病の特徴です。 これまで研究者は、アミロイド・プラークが存在しないケースを、初期段階のアルツハイマー病またはプラークが検出されにくいタイプのアルツハイマー病ではないかと考えてきました。 ところが、このようなケースを生化学的あるいは遺伝子的に調査しても、異常なアミロイドが検出されていませんでした。

PART の定義
この研究では、米国、カナダ、欧州、日本の研究者が集まって、PART と診断する際の基準を定めると共に、 PART を 『原発性のタウオパシー(τタンパク質に異常が見られる病気の総称)であって、神経原線維濃縮体中のτタンパク質が直接的な原因となって引き起こされる疾患』 であると定義しました。

PART が原発性の病気であるのに対して、アルツハイマー病はアミロイドまたはその他の刺激によって二次的に(⇔ 原発的に)生じるのだと考えられています。

研究チームは、アルツハイマー病に見られる神経原線維濃縮体に似る神経原線維濃縮体があるがアミロイドのプラークは見られないケースを、今後は PART として分類することを提唱しています。

PART の特徴、患者数
PART の症状は高齢者において深刻で、比較的若い人では軽度です。 また、神経原線維濃縮体が脳全体に広がっているアルツハイマー病患者と違って、PART の患者では神経原線維濃縮体の分布は記憶への関与が深い脳構造を主とする領域に限定されています。

PART の患者数がどの程度になるのかは不明ですが、神経原線維濃縮体が大部分の高齢者の脳に見られることから、実際の患者数は一般的な認識よりも多い可能性があります。 脳のスキャンと脳脊髄液の検査(アミロイドとτタンパク質のマーカーを調べる)により、軽度認知障害(MCI)患者の25%でアミロイドは存在しないがτタンパク質は存在するという結果になった研究もあります。

PART とアルツハイマー病を区別することの意義
これまで、PART とアルツハイマー病の区別がなされていなかったために、アミロイドをターゲットとするアルツハイマー病用の薬の臨床試験の結果が歪んでしまってきた可能性があります。 アルツハイマー病患者として PART 患者が試験に参加しても、アミロイドをターゲットとする薬が PART 患者に効果を発揮するとは思われないためです。

PART とアルツハイマー病を区別することによって、それぞれに適切な治療法が開発される土台が用意されることになります。