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生野菜食主義がダメな5つの理由

菜食主義の種類

菜食主義(vegetarianism)と完全菜食主義(vegan)との違いは、卵や乳など動物性のタンパク質を完全に拒否するか否かです。 動物性のタンパク質も摂取する菜食主義が健康に有効であることは科学的に裏付けられていますが、完全菜食主義はそうでもありません。

その完全菜食主義よりも極端な食事のスタイルとして、生野菜完全菜食主義(raw veganism)というのが一部で広まりつつあります。

生野菜完全菜食主義(以下、"生野菜主義")とはその名の通り、加熱していない生野菜しか食べないという食事法のことです。

生野菜主義の効果として喧伝(けんでん)されているのは、病気が治るとか、元気になる、肌が綺麗になる、老化しない、野生動物と仲良くなれるなどです。

しかし、菜食主義や完全菜食主義と比べて、生野菜主義はデメリットの方が多いようなのです。 完全菜食主義を実行する医師たちでさえ、生野菜主義については否定的です。

生野菜主義の食事

生野菜主義の食事は、野菜ベースの食事で、食材を40℃以上に加熱しません。 生のままの食品か、低温で水分を抜いた食品、あるいは発酵させた食品(つまり漬物ですね)のみを食べます。

この「40℃以上に加熱しない」というポリシーの背景には、加熱によって栄養分が損なわれるだけでなく、食品が毒性を持ち、消化し難くなるという考えがあります。 生野菜主義では、調理を「殺すこと」とみなし、加熱していない食品のことを「生きた食品」と言ったり、逆に加熱された食品のことを「死んだ食品」と言ったりします。

そして生野菜主義者たちによると、未調理の生の食品は生命力に満ち溢れているが、加熱調理した食品ではその生命力も栄養分も失われてしまいます。 生野菜主義の思想の背景には、「気」や「プラーナ(インド文化における「気」のようなもの)」といった概念があるようです。

ミキサーや搾り器で作った野菜汁を混ぜた「緑色スムージー(日本でいえば青汁か)」が、生野菜主義における基本的な食事です。

生野菜食主義がダメな5つの理由
迷信① 「調理により栄養分が破壊される」

生の食品にも栄養はありますが、栄養分の中には、調理によって繊維や細胞壁が分解されることによって放出されて初めて、ヒトが吸収できるようになるものがあります。 例えば、トマトのリコピンにしても、調理することで、ヒトが利用できるリコピンの量が5倍に増えます。 人参のベータカロチンにしても同様です。

さらに、野菜にはミネラルの吸収を阻害する化学物質が含まれていますが、調理により、そのような化学物質も減らせます。 例えば、ホウレン草から得られる鉄分とカルシウムの量も、調理によって増加するのです。

その一方で、調理によって失われる栄養分も確かに存在します。 ビタミンC とビタミンB がその筆頭です。 しかし、野菜にはこれらの栄養分は大量に含まれているので、調理によって分解されてしまっても差し支えありません。

栄養学の専門家によれば、調理した食品と生の食品の両方を食べるのが理想です。

迷信② 「調理により酵素が破壊される」

調理により酵素が破壊されるというのはその通りですが、酵素が破壊されても問題ありません。 人の体内では、食品の大きな分子を小さな分子に分解するための消化酵素が作られています。 調理済みの食べ物を私たちが順当に消化できているのが何よりの証拠です。

さらに、生野菜の酵素の大部分はどのみち、ヒトの消化管が分泌する酸で破壊されてしまいます。 生野菜の酵素のうち小腸にまでたどり着くのは極一部です。 ザワークラウト(キャベツの漬物)などの発酵食品に含まれる酵素は腸までたどり着いて消化を助けますが、その効果は限定的です。

生野菜に含まれる酵素が大切であるとする説は、1920~30年代の研究に基づいて 1940年代に提唱され始めました。 その当時は未だ、栄養分の大部分が小腸で吸収されていること、そして小腸での栄養吸収の大部分が体内で生産された胆汁および膵臓の酵素に依存していることが知られていませんでした。

人体に存在する酵素が有限であるというのも、この時代に言われ始めた迷信です。 実際には酵素は、体内で無限に作り出されます。

迷信③ 「生の食品には解毒作用がある」

「食事による解毒(いわゆる "デトックス")」というのは、代替療法的な発想で、科学的な根拠はあまりありません。

解毒の対象として良く挙げられるのが肝臓と結腸ですが、実際のところ、結腸に蓄積する毒素の量は驚くほど少量です。 また、肝臓については、「毒素を濾(こ)し取る臓器なので毒素が溜まっているに違いない」という誤った知識から解毒が必要だと言われます。 しかし肝臓の実際の機能というのは、毒素を濾し取る(フィルターにかける)というよりはむしろ、毒素を分解することなので、肝臓には肝臓が分解の対象とする程度の量の毒素しか存在しません。

実際には毒素は体のいたる所に蓄積します。 毒素の蓄積が特に見られるのは脂肪と脂肪組織ですが、タンパク質や骨にも毒素は蓄積します。

「生の食品には解毒作用がある」と主張する人はその根拠として、「生野菜食によって、燃焼した脂肪から毒素が放出され(て体外に排出され)る」という説を用いますが、脂肪細胞は、燃えて灰になって細胞の内容物を放出するというような燃焼の仕方はしません。 細胞内に蓄えられている脂肪の量によって細胞のサイズが変化するだけです。

毒素を伴っている脂肪分子の燃焼時に細胞から毒素が放出されるのか否か、また放出されるとしてどれだけの量の毒素が放出されるのかは不明ですが、仮に脂肪の燃焼によって毒素が細胞から放出されるとすれば、極度の飢餓状態のときには、肝臓が毒素で溢れかえって健康に悪影響を与えることになります。

生野菜にデトックス効果が無いことは、生の植物しか食べていない草食動物でも脂肪に毒素の蓄積が見られることからも明らかです。

ただし、(生のものに限らず)野菜を豊富に用いた食事をして、水分をたっぷり摂れば、肝臓や腎臓による毒素の処理が促進されます。

迷信④「生の食品は自然」

人類は20万年以上も(おそらくそれ以前から)加熱調理した食品を食べてきました。 世界のどこにも、生野菜だけで暮らすという文化を持つグループは存在しません。 生野菜だけを食べて暮らしてゆくには冷蔵庫という文明の利器が必要だということからも、生野菜主義というものが不自然な食習慣であると言えるでしょう。

また、他の霊長類に比べても桁外れに巨大なヒトの脳(例えばゴリラの場合、体のサイズはヒトの3倍だが脳細胞の量は1/3)を維持するには、加熱調理されてカロリーなどの栄養を豊富に含む食品を食べることが不可欠です。

2012年に発表された研究では、生の植物だけを食べているゴリラがヒト並みの脳を発達させるには(生の植物では栄養が足りないので)1日に12時間以上も食べ続ける必要があると推算されています。

迷信⑤ 「生野菜主義は健康的」

生野菜食は摂取カロリーが少ないので体重が減る人は多いですが、ビタミンB12ビタミンD、セレニウム、亜鉛、鉄、オメガ3脂肪酸などが不足します。 これらの栄養分をサプリメントなどで補給しない限り、生野菜食からこれらの栄養素を十分に摂ることは非常に困難です。 ビタミンB12 については不可能です(海苔に含まれていたと思いますが)。

さらに、生野菜食では、食事内容が単調になる恐れがあります。 ナッツやバナナだけで必要なカロリーを摂取しようとすると栄養のバランスが崩れてしまいます。

果物ばかりを食べていた生野菜食主義者の中には歯がボロボロになってしまう人もいます。 果物の酸で歯のエナメル質が溶け、果物の糖分で歯の侵食が進み、ドライフルーツ(生野菜主義者の主食の1つ)が歯に挟まって侵食がさらに進み、そこに生野菜食を原因とするミネラル不足が追い討ちをかけるのです。 参考記事: 100%果汁のジュースでも子供の歯に良くない
"European Journal of Clinical Nutrition" オンライン版(2015年3月)に掲載された研究では、(生野菜食主義者ではない普通の)菜食主義者であっても普通の食事をしている人に比べて、歯の損耗や虫歯が多いという結果になっています。