(2014年11月) "Acta Neuropathologica" に掲載された米国の研究で、乳幼児突然死症候群(SIDS)で死亡した乳児の40%超において脳に異常のあることが判明しました。 異常が見られたのは呼吸や心拍、体温などの機能に関与する海馬という器官です。 この40%超という数字は、SIDS 以外の原因で死亡した乳児よりも大きな数字です。
SIDS(ゆりかご死)とは、生後1年以内の乳児が突然死んでしまい、死後の調査でもその理由が不明であるというケースのことを指します。 "SIDS" という言葉は、英語の "Sudden infant death syndrome(乳幼児突然死症候群)" の略語です。
SIDS は睡眠中の乳児で起こり易くなります。 寝かしつけた後で、苦しんだ様子もなく死んでいるのに気が付くというのが典型的です。今回の研究によると、異常が生じていたのは海馬のうちの歯状回と呼ばれる部分で、この部分に限局性果粒細胞二層化(focal granule cell bilamination)という異変が生じていました。 この異変は、歯状回において一定の間隔で、通常は単層を形成するはずの神経細胞が二層を形成するというものです。
海馬の異常によって、脳による呼吸および心拍パターンのコントロールが、夜間の睡眠中に周期的に僅かな時間だけ目が覚めるとき、あるいは睡眠中に不安定になっている可能性があります。
研究者は次のように述べています:
今回の研究では、SIDS あるいは感染症や窒息などが原因で死亡した乳児153人の海馬を調査しました。 SIDS(原因不明の理由)で死亡した乳児では41.2%で歯状回に異変が見られたのに対して、死因が明らかな乳児で歯状回に異変があったのは7.7%でした。 死因不明の乳児のうち SIDS に分類されるものに限ると、43%の乳児の歯状回に異変が見られました。
歯状回に異変が見られた41.2%のケースには、うつ伏せ寝で死亡していた場合と仰向け寝で死亡していた場合の両方が含まれていました。
研究グループによると、今回明らかになった海馬の異変は、側頭葉癲癇(てんかん)の一部のケースに見られる海馬の異変に類似しています。 癲癇とは脳障害の一種で、脳の活動に乱れが生じるために注意力、振る舞い、呼吸、心臓機能などに異変が生じる発作が起こります。 重度の発作は命にも関わります。
過去の研究では、SIDS が実は癲癇発作で、その発作が原因で心臓と呼吸が止まるのではないかという仮説が立てられています。 ただし今回の研究者によると、癲癇発作が SIDS の多くのケースの原因となっていると現時点で断定することは出来ません。海馬の異変が SIDS で死亡した乳児の43%にしか見られなかった点について研究者は、「SIDS は様々に異なる原因が存在する『症候群』である可能性が高い」と述べています。
同じ研究グループの過去の研究では、SIDS で死亡した乳児の多くではセロトニンの代謝に異変があることが明らかにされています。 このような乳児では、神経伝達物質であるセロトニンだけでなく、脳幹(呼吸・心拍パターン・血圧・体温の調整・睡眠中の覚醒に関与する)の各所に存在する各種セロトニン受容体の量が低下していたのです。
研究グループは、脳幹のうちセロトニンの生産に関与する部分に異変が生じるために、歯状回の発達に異変が生じるのではないかという仮説を立てています。