忘却を促進する神経細胞の活性が睡眠により抑制される

(2015年6月) "Cell" 誌に掲載された The Scripps Research Institute(米国)の研究(動物実験)により、忘却を促進する神経細胞の活性が睡眠により抑制されることが明らかになりました。出典: New Study Brings Together Neuroscience and Psychology to Paint More Complete Picture of Sleep and Memory
記憶の保持と睡眠

心理学の分野では、睡眠により記憶の保持が助長されるのは心身の活動による(記憶への)干渉が睡眠によってストップするから、つまり睡眠によって脳が記憶保存の妨げとなる刺激から隔離されるからだと考えられています。

その一方で神経化学の分野では、睡眠により記憶の保持が助長されるのは睡眠により記憶の安定性(記憶固定)が強化されるためだと考えられています。
研究の内容

この研究では動物実験により、薬物または遺伝子操作により睡眠時間を増やすとドーパミンによるシグナル伝達の活性が減少し同時に記憶の保持が強化されることが示されました。 逆に目覚めている時間を増やした場合には、ドーパミンのシグナル伝達が促進されて忘却が加速されました。

解説

ドーパミンの活性は様々な可塑性を制御しています。 可塑性とは脳が学習および記憶の形成に反応して変化する能力のことで、忘却もその一部です。

研究者は次のように述べています:
「今回の結果により、『睡眠により脳における忘却シグナルが減少し、それによって記憶が損なわれることなく維持される』という考えが補強されました。 睡眠のレベルが深くなるほどにドーパミン神経の刺激に対する反応が減少し、それによって記憶がいっそう安定します」
研究チームによると記憶固定と忘却は、それぞれが互いに独立的かつ並列的に行われている可能性もありますし、依存的かつ逐次的に行われている可能性もあります。 後者の場合には、睡眠により記憶固定が助長されるための前提条件として忘却が減少している必要があります。

「今回の研究では、新しい記憶が睡眠により保護される理由の1つがドーパミン神経の沈静化にあることが明らかになりました。 忘却はドーパミン神経により引き起こされます」

「実験動物とヒトは、睡眠を必要とする点や学習・記憶を司る様々な遺伝子や回路機構において共通する部分があります。 したがって今回の結果はヒトにも当てはまる可能性があります」