激しい運動でも免疫力は低下しない。免疫細胞は失われるのではなく移動するだけ

(2018年4月) マラソンのような持久運動により免疫力が衰えるという説が数十年前から存在しますが、バース大学(英国)の研究グループが "Frontiers in Immunology" 誌に発表したレビューによると、そんなことはありません。出典: Research debunks ‘myth’ that strenuous exercise suppresses the immune system

過去の通説

持久運動により免疫力が衰えるという説の発端は 1980年代に行われた研究です。 この研究でロサンゼルス・マラソン参加者に「大会参加後の数日間あるいは数週間のうちに感染症の症状がありましたか?」と尋ねたところ、多くの参加者が「症状があった」と回答したのです。

この結果から、持久運動が免疫系に悪影響を及ぼして感染症のリスクを増加させるという考えが広まりました。

レビューの概要

今回のレビューでは、1980年代以降に発表された数々の研究論文を調査して、運動は免疫力を低下させるどころか免疫系の健康に有益であるという結論に至りました。

運動の免疫細胞への影響

持久運動を行うと免疫細胞に次の2つの変化が生じます:
  1. 運動中に、血流中に存在する免疫細胞の一部の数が劇的に(最大で10倍)増加する。 増加が顕著なのはナチュラル・キラー(NK)細胞で、このNK細胞は感染症に対抗する機能を備えている。
  2. 運動後に、血流中に存在する免疫細胞の一部が相当に減少し、時として運動前の水準に落ち込む。この状態が何時間も続く。

以前は、運動後の血流中における免疫細胞の減少が「運動により免疫系が抑制される」と解釈されていました。 しかし近年の研究により、免疫細胞が減少するのは免疫細胞が喪失あるいは破壊されるためではなく、免疫細胞が人体の特定の部分に集まるためであることが示されています。 この「特定の部分」とは、肺など感染症に侵されやすいエリアです。

免疫細胞が破壊されたわけではないと考える根拠

上記のように考える根拠は次の3つです:
  1. 免疫細胞の量が何時間かで正常な水準に戻る。 新しい免疫細胞が「何時間か」で補充されることはないはず。
  2. 運動により減少するタイプの免疫細胞が血流中から体の他の場所へと移動することがヒトの研究で示されている。
  3. 免疫細胞に目印を付けて追跡した動物実験において、運動後に免疫細胞が肺などに集まることが示されている。

マラソン大会参加で感染症のリスクが増える理由

マラソン大会参加で感染症のリスクが増えるとして、研究グループはその理由として次のようなものを挙げています:
  1. 大勢の人が集まるから。 大勢の人が集まると感染症のリスクが増える。
  2. 大会に参加するための長距離移動。 特に飛行機での移動では、ゆっくり眠ることができずに睡眠が損なわれます。 それによって感染症にかかりやすくなるのかもしれません。
  3. その他の理由。 栄養が不十分な食事・冷える・濡れる・精神的なストレスなどマラソン大会への参加に伴うトラブルも感染症リスクが増加する一因となり得ます。

コメント

研究者は次のように述べています:
「きつい運動の後には免疫系に変化が生じますが、それによって免疫機能が低下するわけではないことが明らかになってきています。 それどころか最近のエビデンスによれば、運動の後には免疫機能が高まると考えられます。 例えば、運動によりインフルエンザ予防接種の効果が増すことがあります」
別の研究者は次のように述べています:
「今回のレビューによれば、免疫機能の低下を恐れて運動を避ける必要はありません。 運動は心臓病・脳卒中・ガン・2型糖尿病のリスクを下げるうえでも有益です」