皮下脂肪に病原体の侵入を食い止める機能があった

(2015年1月) "Science" 誌に掲載されたカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究により、皮下脂肪が皮膚の感染症の阻止に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。 皮膚の脂肪細胞が、細菌などの病原体の侵入を食い止める抗菌作用を持つペプチド(複数のアミノ酸を含有する分子)を作り出していたのです。

感染症に対する人体の防御機構のメインは好中球とマクロファージで、これらの白血球は病原体を文字通り食べてしまうことにより防御機能を発揮しますが、好中球やマクロファージが患部に到着するまでには時間がかかるため、僅かな時間で増殖する病原体にとりあえず対処する役目は、当初から患部に存在する上皮細胞、マスト細胞(白血球の一種)、および骨髄性白血球(leukocytes)などに一任されると従来考えられてきました。

研究の内容
今回の研究では、黄色ブドウ球菌による感染症に皮下脂肪がどのように関与しているかを調べました。
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はどこにでもいる細菌の1つで、皮膚や軟組織(筋肉・脂肪・線維組織・血管など)の感染症の主要な原因の1つです。 薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌が世界中の病院で院内感染の問題を引き起こしています。

マウスを黄色ブドウ球菌に暴露させたところ、数時間のうちに患部の脂肪細胞の数とサイズが大きく増加し、これらの脂肪細胞が抗菌ペプチド(AMP)の一種であるカテリシジン抗菌ペプチド(CAMP)を大量に生産し始めました。 AMP は自然免疫応答(⇔ 獲得免疫)において用いられる分子であり、侵入してきた細菌や、ウイルス、真菌類(カビ)などを殺菌します。

脂肪細胞を十分に生産できないマウスや脂肪細胞による抗菌ペプチド(特に CAMP)の発現量が不十分なマウスでは、黄色ブドウ球菌感染症の発症率が増加し、感染症になったときの症状も重症となる傾向にありました。

研究グループはさらに、ヒトの脂肪細胞でもカテリシジンが生産されることを確認しました。 このことから、ヒトでもマウスと同様の免疫応答(皮下脂肪による CAMP の生産)が生じるのだと思われます。 また、普通体重の被験者に比べて、肥満者は CAMPの血中量が多い傾向にありました。
研究者の発言集
研究者は次のように述べています:

「これまで、皮膚バリアが(病原体に)突破されてしまうと、敗血症(血液や組織内に細菌や細菌毒素が存在すること)から体を守る機能として残っているのは好中球やマクロファージ(大食細胞)など血中に存在する白血球(免疫細胞)だけだと考えられてきました。

しかし、白血球が患部に集まって来るまでには時間を要します。 今回の研究では、(白血球が患部に集合するまでの間を)病原体から体を守るのが脂肪幹細胞であることが示されました。 脂肪細胞が抗菌物質を生産するということ自体が知られていませんでしたが、好中球に匹敵するほどの量の抗菌物質を生産するというのも驚きでした」

「AMP は感染症に対抗する第一線の防御機構ですが、AMP なかでも CAMP がヒトにおいて両刃の剣であることを示す証拠が増えてきています」

「アトピー性皮膚炎の患者のように CAMP が不足している人は黄色ブドウ球菌やウイルスによる感染症にかかりやすくなりますが、その一方で CAMP が多過ぎても、狼瘡(ループス)や、乾癬、酒さ(顔の血管が膨張して皮膚が赤らむ皮膚疾患)などの自己免疫疾患や炎症性疾患が助長されることが示されています」

「肥満やインスリン抵抗によって、成熟脂肪細胞が AMP の生産に支障が生じ、それによって感染症にかかりやすくなる可能性があります。 一方、カテリシジンが過剰に生産されると不健康なタイプの炎症応答が促進される可能性があります」