T細胞疲弊を妨げるとT細胞が死んでしまう

(2015年1月) "Immunity" 誌に掲載されたイェール大学の研究によると、キラーT細胞(細胞傷害性細胞)には休息が必要です。 慢性的なウイルス感染症にかかっているマウスを用いた実験において、当該のウイルスに特化したT細胞が「T細胞疲弊」と呼ばれる状態になるのを妨げたところ、そのT細胞が死滅してしまったのです。

T細胞疲弊とは

免疫細胞の1種であるキラーT細胞は病原体やガン細胞に対抗するために体が備えている主要な防御機構の1つですが、慢性的な感染症やガンの患者では、このT細胞が「T細胞疲弊(T cell exhaustion)」と呼ばれる状態に陥ることがあります。 T細胞疲弊になったT細胞は能力が衰えてしまって、ウイルスに感染した細胞やガン細胞を取り除いてくれなくなります。

T細胞疲弊はこれまで望ましくないモノだと思われていて、T細胞疲弊を抑えるための薬も作られていますが、近年になってT細胞疲弊が生じるのは単にT細胞が疲れるためだけではなく、慢性的な感染症に対する長期的な免疫応答によって人体の組織自体がダメージを受けるのを防ぐためでもあるのではないかと考えられるようになっています。 今回の研究によると、T細胞疲弊はT細胞が存続するうえでも必要なメカニズムだと考えられます。

T細胞疲弊の内容
今回の研究でも、マウスをウイルスに感染させてから数週間で当該のウイルスから体を守ることに特化したT細胞の機能が衰えることがマウス実験で確認されました。 具体的には次の2点です:
  • T細胞がターゲットを殺すのに用いるタンパク質のうちの一部を生産しなくなった。
  • T細胞の表面が阻害性タンパク質に覆われて、T細胞がウイルスに感染した細胞を認識する能力が抑制された。
阻害性タンパク質

この「阻害性タンパク質」のうち最も研究が進んでいるのは、PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)と呼ばれるタンパク質です。

PD-1はT細胞へのシグナル伝達を遮断して、ウイルスに感染あるいはガン化した細胞が他の細胞に「自分を破壊してくれ」と伝えるためのシグナルに反応できないようにすることによって、T細胞の機能にブレーキをかけます。

このブレーキを取り外すことができれば、慢性的なウイルス感染症やガン腫瘍に対してT細胞を無期限に活躍させられるということで、PD-1の研究が盛んに行われてきました。

PD-1をターゲットとする抗がん剤として既に、ニボルマブやペンブロリズマブという薬がメラノーマ(悪性の皮膚ガン)の治療薬として米国食品医薬局(FDA)に承認されていて、実際に成果を上げています。

PD-1以外では、CTLA4という阻害性タンパク質を遮断する薬(これもメラノーマ用)が承認されています。

PD-1を減らすとT細胞が死滅

今回の研究において研究グループは、マウスのT細胞から FOXO1 という遺伝子を除去することによってT細胞が生産するPD-1の量を減らすことに成功しました。 ところが、FOXO1 を持たないT細胞は、T細胞疲弊を起こす普通のT細胞よりも優秀であるどころか、抗原が持続的に存在する環境に耐えられずに死滅してしまいました。

この結果から、T細胞疲弊は体組織を休ませるためだけでなく、T細胞自身が休息を取って生存するためにも必要なのだと考えられます。

研究者は次のように述べています:
「疲弊状態に陥ったT細胞は能力が衰えますが、それでもある程度の効果は残っています。 T細胞が死滅してしまう方が状況は悪化するはずです。 慢性的に感染しているウイルスに特化したT細胞が全て失われるのですから」
研究者は、T細胞が死なない範囲内で疲弊状態に陥らせないような、PD-1の絶妙なさじ加減があるかもしれないと考えています。